ステンレスって直訳すると「錆びない、汚れない」っていうのは分かるんだけど、そもそもステンレスってどういう材料なの?鉄とは何が違うの?
このような疑問を持った人へ、お答えしていきます。
機械設計をする上で重要な要素の一つに「材質の選定」がありますが、多種多様な材料のなかでも「鉄」や「ステンレス」は非常に多く用いられます。
ステンレスという用語を分解すると「ステン(錆び・汚れ)」「レス(ない)」というのはわかりますが、これは材料の「特徴」を述べた言い方であって、物質として何なのかという表現ではありません。
例えば「鉄」であれば、Feの元素が主成分である金属(Fe単体で作られた純粋な鉄は基本使われません)という解釈ができますが、では「ステンレス」は一体どのような物質か、鉄とは何が違うのか、という疑問を持たれた人は多いと思います。
ただ、結論を言ってしまうと、ステンレスの主成分もFeだったりします。
しかし「鉄」と「ステンレス」は、製造業界だと別物のように扱われるのが一般的です。
そこで今回は、ステンレスとは何なのか、鉄との違いは何なのかについて、お話していきたいと思います。
また、材料を選定する上では、成分としての違いだけでなく、機械的特性や価格、加工性、納期などの違いも重要になりますので、そのあたりも解説していきます。
製造業でよく使われる「鉄」というのは、基本的に「炭素鋼」のことを指します。
純粋なFe単体でできた鉄材は、脆くて加工がしにくいという欠点があり、あまり実用的ではないのです。
例えばガラスのようなものを想像していただければよくて、脆い材料というのは力が加わると、折れたり割れたりしやすいのです。
そのため、鉄に炭素を含有させた材料というのを一般的には使用します。
「炭素を入れれば入れるほどよい」というわけはないのですが、炭素の含有量が0.04〜2%程度である鉄は、折れたり割れたりしにくく、実用性が高い材料となります。
この炭素の含有量が0.04〜2%程度である鉄のことを「炭素鋼」いいます。
炭素鋼は鉄材の中でも、世の中に非常に広く利用されていることから、製造業で一般的に「鉄」といえばこの炭素鋼のことを指します。
鉄と鋼は似たような用語ですが、鉄は「純粋なFe単体」のこと、鋼は「炭素鋼」のことを指します。
先ほども申し上げたとおり、純粋なFe単体の材料はは脆くて加工がしにくいため、世の中ではほぼ使われません。
そのため、世の中で使われるほとんどの鉄材は「炭素鋼」です。
ホームセンターでフライパンや鍋の材質を見てみると、「スチール」とは書かれていますが、「アイアン」とは書かれていないのはこのためです。
しかし、一般的な認識として「鉄」といえば「炭素鋼」のことを指します。
例えば、校庭や公園にある「鉄棒」は「鉄」という字が使われておりますが、もちろん炭素鋼でできております。
鉄を主成分として、クロムの含有率が10.5%以上、炭素の含有率が1.2%以下のものを「ステンレス鋼」と呼びます。(JIS G 0203より)
JIS記号で書くと、SUS(Steel Use Stainless)であることから、「サス」とも呼ばれたります。
鉄とステンレスは別物のように扱われる事が多いですが、実はステンレスの主成分も鉄だったりします。
鉄は何も塗装や表面処理をしなければ簡単に錆びて、腐食が進行してしまいます。
しかし鉄にクロムを含有させていくと、表面に不動態皮膜を形成することで、材料を保護してくれるのです。
不動態皮膜とは、金属の表面に酸化した薄い被膜のことを言います。別名「酸化皮膜」とも言われます。不動態皮膜が形成される事によって、材料の内部を腐食や酸化から保護させることができるため、耐食性を向上させることができます。ステンレス鋼の場合は、「クロム」と「大気中の酸素・水」が反応することによって、不動態皮膜を形成します。
このクロムの含有量が約10%以上となると、大気中ではほとんど腐食しなくなるのです。
ステンレス鋼のなかでも、最も広く使用されているのがSUS304という材料で、これはクロム18%に加え、ニッケル8%を含有させたステンレスとなります。
SUS304という材料の組織構造は「オーステナイト」と呼ばれ、靭性や延性が高いことから加工性に優れるというメリットがあるのですが、ニッケルが加わることで、このオーステナイトの組織構造が室温や低温環境においても安定化するのです。
SUS304が世の中で非常に広く使われることから、製造業で「ステンレス」というと、このSUS304のことを指すことが多いです。
ステンレスの主成分も鉄ではあるのですが、なぜ一般的な認識として「鉄」と「ステンレス」が別物として扱われるのかというと、「鉄とステンレスとでは、材料の特徴が大きく異なるから」であると思われます。
その特徴の違いは次のとおりです。
鉄とステンレスの違いについて、炭素鋼として一般的なSS400と、ステンレス鋼として一般的なSUS304の機械的特性・物性値についての参考値を以下に示します。
物性値 | SS400 *1 | SUS304 *2 |
---|---|---|
引張強さ [N/mm2] | 400〜510 | 520以上 |
比重(密度) [g/cm3] | 7.87 | 7.93 |
縦弾性係数 [GPa] | 206 | 193 |
伸び [%] | 21以上 | 40以上 |
熱伝導率 [W/m・K] | 57〜60 | 16.7 |
線膨張係数 [×10-6/℃] | 11.3〜11.6 | 17.6 |
この物性値は参考値です。
*1:https://www.protolabs.co.jp/media/1014358/cnc-24_ss400_fcm-0024-3.pdf
*2:https://www.morimatsu.jp/data/stainless.html
両者の比重(密度)については、ほとんど同じとして見てもOKかと思います。
一方で、両者で明らかに違うところは「力に対する変形のしやすさ」と「熱に関する特性」の2つです。
縦弾性係数(ヤング率)を見ると、SUS304の方が小さいということがわかります。
これは分かりやすく言うと、弾性領域内でSS400とSUS304とに同じだけ応力をかけていくと、SUS304の方が変形量が多いということになります。
これは、「伸び」の値がSUS304の方が大きいことからも読み取ることができます。
このあたりは、たわみや座屈の計算に大きく関わってきますので、注意しておきましょう。
熱伝達率を見てみますと、SUS304は、SS400の1/3程度しかありません。
これは「SUS304では、材料内部で発生した熱が逃げにくい」ということを意味します。
一方で線膨張係数はSUS304の方が大きいです。
そのため「SUS304では、温度上昇による膨張(寸法変化)が大きい」ということを意味します。
このことからSUS304では、「ただでさえ熱が逃げにくい上に、発生した熱による膨張が大きい」ということになります。
そのため、SUS304は摩擦(加工やボルト締結のときなどに発生)による熱に関するトラブルが多いのです。
加工と一言言っても、その種類は多種多様に及びますが、いくつか例をあげて解説していきます。
例えばプレスなどで曲げる「曲げ加工」については、SUS304の方が伸びやすい材料であるため、曲げRが小さくてもある程度は曲げることが可能となります。
一方で、刃物で削るような「切削加工」については、SUS304の方が加工しにくいです。
工具を材料に当てて材料を削る瞬間には、工具と材料との間に摩擦熱が発生します。
しかし、SUS304の場合「温度上昇による膨張(寸法変化)が大きい」ため、例えば直径「50.0mm」で削ったとしても、材料が冷えてくると「49.7mm」とかになったりします。
鉄とステンレスとでは、切削加工に使用する工具自体は一緒ですが、加工条件を変える(刃物の送り速度など)などして加工する必要があるのです。
納期が短い場合に、部品を「鉄」で作るか「ステンレス」で作るか、といった議論がよくされますが、結論を言うとケース・バイ・ケースだったります。
そのポイントは、防錆処理の有無です。
防錆処理が不要である場合、鉄のほうが有利なことが多いです。
材料そのものの普及率はどちらも変わらないです。
しかし、先ほど「加工性」の項目で述べたようにステンレスは鉄に比べて加工がしにくく、加工に時間がかかります。
特に、寸法公差や幾何公差が厳しいほど、時間がかかります。
防錆処理が不要な場所というと、常にギアオイルがかかる環境など、ある程度限られた用途になりますが、覚えておくと良いです。
防錆処理が必要である場合は、ステンレスの方が有利であることもあります。
防錆処理として最も一般的なのは「塗装」です。
この塗装をするには、下塗りや上塗りを複数回行わなければならず、塗るたびに乾くのを待たなければならないからです。
一方でステンレスの場合は塗装が不要なので、加工ができればすぐ部品として使用することができます。
このあたりは、部品の必要数量や大きさ、加工業者と塗装業者のネットワークの有無などの条件によっても左右するので一概には言えませんが、個人的にはなんだかんだステンレスの方が早いという印象です。
ざっくりとした価格ですが、ステンレスの中で最も代表的な「SUS304」の材料価格は、鉄の材料価格に比べて約3倍高くなります。
SUS304の価格はだいたい300円/kgで、フラットバー(よく使われる鉄材)の価格はだいたい100円/kgです。
ただしこれはあくまで「材料を購入するだけ」の価格であることに注意してください。
材料を買った後の加工において、ステンレス材の中には加工に繊細な技術が必要なものがあり、加工費も高くなります。
例えばSUS304は、刃物との摩擦によって熱膨張しやすいため、加工は熱膨張による寸法変化も考慮した寸法で製作するなどの技術が必要なのです。
そのため、これらを踏まえると、ステンレス材は鉄材よりも数倍は高くなってしまうのです。
材料価格の詳しいデータは、こちらをご覧ください。
今回のポイントについてまとめると、以下の通りとなります。
こういった材料に関する知識は、ものづくりでは欠かせないにも関わらず、その製造の様子などの「生の感覚」を日常生活で感じることはまずありません。
ただ、新日鐵住金では無料で工場見学をしていたりしますので、興味のある方は是非申し込んでみるといいと思います。
https://www.nipponsteel.com/company/tour/index.html
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