コロナ禍で機械設計の仕事をしている人の中で、「そこそこ捗った」という人もいれば「全然仕事にならなかった・・・」という人もいるみたい。在宅ワークで機械設計の仕事をこなしていくためのコツみたいなのがあれば教えて下さい。
このような疑問を持った人へお答えしていきます。
まず、この記事を書いている2020年6月20日時点で、とりあえずは緊急事態宣言も解除されました。
みなさん大変な思いをされていたと思いますが、特に命の危険にさらされながらも、医療に携わっておられた方々には、本当に感謝をしております。
さて、コロナ禍における製造業ですが、確かに業務への支障はありました。
ただ、実際は「製造業の中でも業種によって、在宅ワークができる・できないが二極化していた」というものでした。
以下の資料は、楽天インサイトが緊急事態宣言がされていた期間で行ったアンケート結果です
こちらを見ますと、私のような機械設計者を含むエンジニア職も6割近くの人が在宅ワークをしていたという結果になっています。
そのため、「IT系の職業じゃないと在宅ワークは無理」ということでは決してないのです。
一方で、ニュースでよく報道されていた「生産現場で業務をしていた人たち
」への打撃は大きく、コロナ禍で在宅ワークができていた人は1割も満たないという結果でした。
じゃあ「機械設計のようなエンジニア職のみんなは、在宅ワークで安心・快適に仕事ができるか」と言われると、それもまた正しいとは言えませんでした。
そりゃ、テレビやSNSで取り上げられているような「収入が0円になってしまった」「もう商売をたたむ決断をせざるを得ない」といった状況に置かれている人たちと比べれば状況的に恵まれてはいたのですが、
すべての業務をそのまま家に持ち帰れるほどではないのです。
これはパソコンの得意・不得意によるものありますが、業務内容的に物理的にできるものと、できないものとがあったという感じでした。
そのため、在宅ワークをする際には、「在宅ワークでも可能な業務」と「出社しないと難しい業務」との仕分けをしておくことが大事かなぁという感じでした。
そこで今回は、どんな業務はできていたか、あるいはできなかったかについて、解説していきます。
この記事を読んで、在宅ワークの中でも可能な限り生産性を落とさずに業務をするヒントにしていただければ幸いです。
本題の前の注意点として、伝えておきたいのですが、この記事は「生産現場で働くのはオワコン」ということを言っているのではありません。
ものづくりでは「生産現場の力」「三現主義」が重要なのは間違いないです。
この記事はあくまで、機械設計の業務をしている人たちの役に立つ情報を届けたいという趣旨で執筆しているというだけのことですので、ご理解の程よろしくお願いいたします。
図面を確認するだけであれば、在宅ワークでも問題ありませんでした。
CADのviewerであれば、低スペックなパソコンでも問題ないですし、無料で使えます。
私が使っているviewerは以下の2つです。
また、PDF化さえしておけばある程度は図面が見れますし、Adobe Readerのコメント機能を使えば、図面を通じて誰かとコミュニケーションを取ることもなんとかできました。
ただし、電子化されていない図面が必要な人達は、在宅ワークが始まる前日に、大急ぎでPDF化していました。スキャナーの前にはちょっとした行列ができていましたね笑。
場合によっては図面を作った装置の組立要領や、お客さん向けのメンテナンス要領書などを、設計者が作成する場合がありますが、それらも在宅ワークでは可能でした。
WordやGoogleドキュメントなどの文書作成ソフトと、先程紹介したCADのviewerがあれば、viewerで映した画面をキャプチャーして、Wordにコピペをして、
「〇〇の順序で部品を固定します。」「ここのボルトを締めます。」と書いていけば、そこそこ立派な要領書が完成します。
ただ、一般的に機械図面には描かないもの、例えば配線や配管などが絡んでくる場合には、実物の写真が必要になったりすることもあるので、注意が必要です。
機械要素(ベアリングとか、モータとか)の大手メーカのウェブサイトに行けば、だいたいは電子カタログを閲覧したり、ダウンロードしたりすることができます。
そのカタログを見ながら、機器の仕様を確認したり、選定をしたりすることができます。
また、JIS規格も今ではネットで調べることができます(日本産業標準調査会:データベース検索)。
むしろ、最近は紙媒体のカタログを発行しないメーカが増えてきたという印象です。
考えてみると、カタログを作るのに、紙代、印刷代、発送代など費用がかさむのに対して、受け取る側はだいたいが無料です。
そのため、カタログ発行にかかった費用を回収するために、製品単価に上乗せされていたりするところが多いです。
しかも、新商品が出たり、逆に生産終了品がでてきても、紙カタログだとすぐに反映させることが難しいため、紙カタログに掲載されている商品について問い合わせてみると「それは生産が終了しています」なんて言われることもしばしばあります。
おそらく将来的には紙でカタログや規格を発行する企業はどんどんなくなっていくと私は思います。
電子カタログは使い方に若干クセがあるものもあり、最初は使いづらいこともあると思いますが、今のうちに慣れておくのがいいかと思います。
簡易計算の計算書の作成業務は、エクセルやGoogleスプレッドシートさえ使えれば在宅ワークでも可能でした。
ここでいう簡易計算とは「PCに高負荷がかかるようなハイエンドな解析ソフトなしでもできる」という意味です。
標準的な部品、単純形状の部品であれば、高価な解析ソフト・ハイスペックなPCは不要です。
大学の4力学(機械力学・流体力学・熱力学・材料力学)や解析力学の入門的な部分で習う式を使うだけで計算をすることができますし、機械要素の選定をするための選定手順や計算式は、メーカーの技術資料を見ればだいたい載っています。
特に構想設計の段階では、このような簡易計算をたくさんこなしていって、装置の全体像や主要部品についてをざっくりレベルで決めていくことの方が多いです。
ただし、何千・何万といったセルに計算式が入ったファイルだと、さすがに動作が重く、低スペックなPCだと業務が難しいです。そのような業務が多い人は、VBAを覚えることをオススメします。
おすすめのサイト:エクセルの神髄
図面を描くのに必要なのが「CAD」というソフトウェアですが、このソフトウェアを使うとなると出社しないと業務を進めるのが難しい場合がありました。
その理由は、CADのほとんどが、会社名義のライセンス契約であるからです。
NETFLIXを例として説明するのが最もわかりやすいのですが、
例えば家族で1つアカウントを作って、NETFLIXを契約するとします。
NETFLIXでは契約したプランによって「同時に視聴可能な画面数」が決められていおり、スタンダードを契約した場合は「2」しかありません。
そのため、家族のうち2人がNETFLIXを見ていた時点で、どちらかがNETFLIXを閉じない限り、別の誰かがNETFLIXを開くことができません。
CADにもこれと同じ仕組みが当てはまり、会社名義という1つのアカウントを通してCADを利用する際に、「同時に使用可能なPC台数」が決められています。
そのため、契約したライセンス数よりも、CADを使いたい人が多い場合、別の誰かがCADを閉じない限り、別の誰かがCADを使うことができないのです。
ここまでの仕組みはNETFLIXと同じなのですが、さらにCADの場合、ネットに接続していないくてもCADが使えるよう、ライセンスを持ち出すことができるのです。
この方法を使うことで、ライセンスを持ち出した本人は何も気にすることなく在宅ワークでもCADが使えるのですが、その代わりそのライセンスが返却されるまで、「同時に使用可能なPC台数」が減ってしまうのです。
そのため、私の会社ではライセンスの持ち出し申請が殺到し、結局は部署あたりの持ち出し可能ライセンス数に制限がかかることとなりました。
「従業員の人数分だけ契約する」というが理想ではありますが、常時全員が使っているというわけではないですし、何よりライセンスはそんなに安価なものではありません。さらに解析用のライセンスとなると、1ライセンス1年間で1000万円近くするなんていうのもあります。
2つ目の理由は、会社で支給されるパソコンは、スペックが低いことが多いからです。
例えばSolid Worksという3DCADソフトは、メモリ16GB以上が推奨されておりますが、会社の出張者用のノートPCの多くは、メモリが8GBだったりします。
絶対使えないということはないですが、かなり動作がもっさりしたり、場合によってはフリーズします。
私の会社に入業しているCADオペレータの方は、会社で支給されているデスクトップPC本体とモニター2台を、会社から承認をもらった上で持って帰っていましたね。
会社に置いてあるハイスペックPCを、リモート操作ができるようなシステムが会社にあれば、この問題は解決します。
持ち帰ってきたノートPCに、会社のハイスペックPCの画面を共有画面で映しつつ、マウスやキーボードの操作をする事ができるので、あたかも持ち帰ってきたノートPC自体が様々なソフトを実行したりしているような感じになります。
ただ実際にソフトを起動したり、解析計算をしたりしているのはあくまでハイスペックPCであり、持ち帰ってきたノートPCはその画面が映っているだけですので、ネット環境にさえ問題がなければノートPCでも十分です。
ただし、会社に設置されているハイスペックPCの数も限りがあることが多いので、他の人がすでに使ってしまっている場合は、空くまで待つしかないです。
CADのライセンスと同様、このリモート操作の申請も殺到し、結局制限がかかっていたりしていましたね。
何かアイデアを考えていて、それに行き詰まってしまうと、在宅ワークの中で突破していくのは、なかなか難しかったりします。
例えば、機械設計で設計をする際に、今まで作った事がある構造をちょっと変えれば済むものだったらラクですが、一からアイデアを練らなければならないものもしばしばあります。
このような何かアイデアを考えていかなければならないような仕事では、得意・不得意に関わらず「アイデアが出てこないとき」というのは必ずありますが、「これをすれば確実にアイデアが降ってくる」という方法は残念ながらありません。
私の会社の後輩もそうですし、私自身も昔そうだったのですが、「どうしよう。どうしたらいいのか・・・」って一人で悩んでいても、何も解決しないことの方が多いんですよね。
クリエイティブな業務が求められる広告業界の超大手、博報堂から出ている「博報堂のすごい打ち合わせ」という本の中でも、「ひとりの社員が思いつける発想には限界があるというのも事実です」と書かれております。
「アイデアは雑談から生まれる」なんて言わたりしますが、在宅ワークだと今相手の時間が空いてそうかどうかがわからないので、ビデオ通話をするのにアポが必要になり、雑談のハードルが上がってしまいます。
また、打ち合わせをセッティングして、他の人の頭も借りたとしても、実際Zoomなどのビデオでの会議は、音声がプツプツ切れたりしますし、マイクから遠い人が話をしていると会話に入れなかったりします。
これらを踏まえると、やっぱり対面の方がいいなぁと思ったりすることもありました。
部品の現物ありきで業務をしなければならないものは、出社しないと難しいです。
設計といいつつも常にデスクワークをしているのではありません
試作品の確認や試験をしたり、設計のときに想像していたとおりになっているかを確認したり、現物を見ながらアイデアを考えたり、時には工事のSVをしたりと、ある程度の頻度で現場に出向く必要が出てきます。
しかし冒頭で「生産現場の従業員の在宅ワークの実績が非常に低い」という結果でも出たとおり、現場の業務を在宅に置き換えるのは無理です。
特に新人の人ほど、現場は大切です。私も後輩を教えているときによく思いますが、色々と理論立てて説明するよりも、実物を見せたほうが理解してもらいやすいケースが多かったりします。そのため、コロナ禍などで現場に行けないことは、設計者として上達できないこととほぼイコールでした。
今回のポイントについてまとめると、以下の通りとなります。
ただ、効率を落とさずに在宅ワークで業務をするためには、自宅の中に業務ができる環境を整えておくことも必要になってきます。
詳しくは以下の記事でも解説をしておりますので、よろしくければご参照ください。
今回は以上となります。ご一読ありがとうございました。
ものづくりのススメでは、機械設計の業務委託も承っております。
ご相談は無料ですので、以下のリンクからお気軽にお問い合わせください。
機械設計の無料見積もり
機械設計のご依頼も承っております。こちらからお気軽にご相談ください。
構想設計 / 基本設計 / 詳細設計 / 3Dモデル / 図面 / etc...
在宅ワークで機械設計をするための必須アイテム【業務環境は大事】
失敗と不具合との違い【クライアント目線がポイント】