六角ナットの規格について調べると、1種、2種・・・って呼んでいたり、スタイル1、スタイル2・・・と呼んでいたりしているけれど、どっちが正しいの?
このような疑問を持った人へお答えしていきます。
私は普段、機械メーカーで設計の仕事をしています。
機械設計において六角ナットは、かなり使用頻度が高く、機械要素の基本中の基本とも言えるような部品です。
六角ナットと一言で言っても、いくつか形状的な種類が存在します。
業界の一般的な感覚としては、単に「六角ナット」と言えば1種の六角ナットのことを指しており、図面でも1種の六角ナットで描かれていたりします。
ところが、JISで六角ナットについて調べてみると、本文ではスタイル1、スタイル2・・・などと呼ばれており、1種、2種・・・などというのは附属書内に記載されていたりします。
中身を見ても、それぞれ寸法が同じようなところはあるものの、若干違っている部分もあります。なんだかわけがわからなくなりますよね・・・
実は「1種、2種・・・」などと呼ばれているものは「旧JISの六角ナット」であり、
一方で「スタイル1・・・」などと呼ばれているものはISO(国際標準化機構)の規格に準拠した六角ナットとなっており、現在のJISもこちらになっております。
ただし旧JISとは言いつつも、現在のJISにもちゃんと記載がされてしまっているので、結局どちらを使ったほうがよいのかという混乱を招くことになってしまっています。
そこで今回は、このような混乱を招いてしまっている方に向けて、どっちを使用したらよいかについて詳細に解説していきたいと思います
この記事を読んで、みなさんが機械設計をする際の参考にしていただければ幸いです。
なおこの記事では、1種などの六角ナットを「旧JIS系」、スタイル1などの六角ナットを「ISO系」と呼ぶこととします。
まず抑えておきたいのは、この記事を書いている2020年4月においては「どちらを使ってもいい」ということです。
ISO系の六角ナットのほうが、旧JIS系の六角ナットよりも若干ナットの高さが大きかったりはしますが、
「ISO系のねじでないと、ナットの強度的にもたないっ・・・!」みたいな設計をする人はまずいないです(強度が心配なら、ねじサイズをアップするか、締結箇所を増やすのが普通です)。
そのため、どちらが正しくて、どちらが間違っているということはなく、極端な話、旧JIS系とISO系の六角ナットを混在して使用しても、機能上は問題ないというのが結論になります。
ただし、客先との契約に置いて、ISO系を使用するといったことが定められている場合には、それに従う必要があります。
ISO系の六角ナットを使用する際の注意点がいくつかあります。
確かに強度上はISO系を使っても、旧JIS系を使ってもいいのですが、とはいっても両者のナットは寸法が異なる部分があったりするので、注意が必要です。
そのため、六角ナットの規格を混在して使うと管理上ものすごく大変になります。
両者の主な違いは以下のとおりです。
前者では、いざナットを締めようとしたらスパナが掛からないといったことが生じますし、後者では、ねじの長さに関する不具合が出てくる可能性があります。
後者の内容について、もう少し詳しく説明していきます
旧JISのナットを使っていたところを、ISO系に置き換えると、ダブルナットを使っているようなところで、ねじの掛かりが足りなくなる可能性が出てきます。
ナットの高さが高くなることで、下ナットを締め込んだ後の雄ねじの長さが短くなります。
そのため、上ナットを締め込むためのねじの掛かりが足りなくなるといった不具合が想定されます。
旧JISのナットを使っていたところを、ISO系に置き換えると、ねじを締結したときに、雄ねじがナットに引っ込んでしまうが起こり得ます。
そうすると、締め込んだねじをパッと見たときに、「ねじが適切に締結されているのか、緩んでいないか?」「ねじの掛かりが足りているのか?」といった判断ができません。
機械では、発生するトラブルの中でも、ねじの緩みに関するトラブルが圧倒的に多いです。
パッと見て異常がないかどうかを判断できるようになっていないと、事故が起こる可能性が高いので、ナットから雄ねじが出てきていないのは好ましくないのです。
どちらを使ってもいいということはわかったかと思いますが、そもそも「規格が2つ存在する」というのは非常にややこしいですよね
では何故こんなややこしい事になっているのか、ということについて解説したいと思います
ISO系六角ナットをこの記事で初めて知った方もいるかもしれませんが、実はISO系のが登場したのは、1985年と、35年も昔になります。
このあたりの時期からJISでは、六角ナットに限らず、様々な機械要素の規格についてもISO規格に合わせていこうとしていたのです。
この頃の日本は「ものづくり大国の日本」として、トヨタ自動車やソニーなどのように世界へどんどん進出していっているときでしたね。世界各国と商売をするには、機械要素の規格をISOに合わせていく必要があるという判断がされたのだと思います。
事実、ISO系の六角ナットが導入された1985年のJIS改正の内容を見ると、
ISO 4032:1979~ISO 4036:1979を導入してこれを規格本体とし、1974年版の旧JISを附属書に移した
引用元:JIS B 1181
と、改正以前まで使われていたJIS規格が本文から外されておりますし、現在のJISの附属書(旧JIS系六角ナットの記載があるページ)を見てみると、その冒頭において、
この附属書(旧JIS系六角ナットのページのこと)は、将来廃止するので、新規設計の機器、部位などには使用しないのがよい。
引用元:JIS B 1181
と明記されているのです。
JISは1985年以降、ISO系六角ナットを国内に普及させていこうと一生懸命やっていました。
しかし、実際のところは、あまりうまく浸透していかなかったということが伺えます。
I1985年以降、JIS本文から外されたものの附属書としては残った旧JIS系のその後を追ってみると、20年間弱は大きな変更等はないまま運用されてはいました。
ところが、2004年の改正時において
附属書1及び附属書2(旧JIS系の規格などのこと)は、制定してから20年近く運用されているのでこれらの附属書に対して明確な方針を提示することにして5年の経過期間を置き、2009年12月31日限りで廃止することにした。
引用元:JIS B 1181
という決定がされました。
しかし、2009年の改正を見てみると
我が国における六角ナットの生産・使用の実態は、附属書(旧JIS系)によるものが圧倒的に多いため、附属書1及び附属書2(旧JIS系の規格などのこと)を継続して残置し、附属書の廃止期限を5年間延長して、2014年12月31日限りで廃止することにした。
引用元:JIS B 1181
といったように、5年間の延期が決定。
さらに、2014年の改正を見てみると、
今回の改正の要点は、附属書の廃止期限の到来を踏まえて、現在も生産・使用の取引が圧倒的に多く、各産業分野で使用されている附属書の六角ナットの取扱いを継続するため、附属書の廃止期限を削除したことである。
引用元:JIS B 1181
といったように、旧JISの廃止期限が削除されることとなりました。
そのため、ISO系を普及・浸透させていきたいというのがありつつも、旧JIS系を使用しているケースが圧倒的に多いことから完全廃止までには至らず、結果として2つの規格が存続することになりました。
旧JISの廃止については、特に建築分野から批判を受けたようです。建築物はボルト・ナットを外して分解することは想定していないので、旧JISが廃止になってしまうと、JISに準拠するためには建物をスクラップにするしかなくなってしまうのです。
これによって、六角ナットの規格について混乱を招く事態となってしまっているのです。
今回のポイントについてまとめると、以下の通りとなります。
なお、機械設計者なら1人1冊は必須の書籍である「JISにもとづく機械設計製図便覧」では、ISO系のナットのみが記載されております。
旧JIS系を参照する際は、JIS B 1181または、以下の記事を参考にしてみてください。
今回は以上となります。ご一読、ありがとうございました。
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