こんにちは、りびぃです。
普段は産業機械を中心に、機械設計の仕事をしております。
設計を始めたばかりの頃、よく悩んでいたのが「材料って何を使ったらいいのか?」ということです。
よく、描いた図面を上司に見せると・・・
とかなり質問攻めにされました。
よくわからないままテキトーに「鉄です!」って答えると、「なんやそれ、具体的になんの材料なん!?」と怒られてましたね笑
設計をするときにどの材料を選べばよいか悩む人が多いと思いますが、その理由は
などがあり、とても混乱してしまいます。
ですが、この材料が決まるだけで、
多くの要素がある程度決まってきます。
また、部品の材料は構想設計や基本設計などといった、設計の比較的早い段階で決定される事が多いので、材料の選定をミスると「その部品を最初から検討し直す」ということも往々にしてあります。
そのため、設計者自身が「こういう場合は基本的にコレを選ぶ」という指針を持っているかどうかが、設計能力や設計スピードを決める大きな要素となってきます。
そこで今回は、これまでの私の経験をもとにして、「どのように金属材料を選んでいるかの選定方針」を初心者の方向けにざっくりめに紹介していきたいと思います。
実際のところ、材料の種類は数え切れないほど膨大にありますし、同じ材料でも焼入れ等の熱処理・調質、表面処理等によって性状が全く異なったりもするのですが、
今回は初心者向けということで、細かい話は抜きにして解説していきたいと思います。
目次
材料を選ぶ上で特に要件がないのであれば、鉄系を選ぶのが良いです。
理由は、
等が挙げられます。
この中で、まず基本となるのはSS400です。
金属材料の中では最も一般的ですし、材料データも豊富で強度計算等もしやすかったりします。
ただしSS400は生材のままだと空気中でも簡単に錆びていってしまいますので、腐食対策は必要になります。
安価にできる腐食対策に「黒染め」がありますが、結構すぐ錆びてくるので、あまり信用はできません。
雨が多い日や、湿気がある日なんかはあっという間に錆びますねー
亜鉛メッキ・ニッケルメッキ・クロムメッキなどといったメッキ処理をするか、塗装をするなどをしたほうが良いです。
もっと強度が欲しいのであれば、続いて候補になるのは炭素鋼です。
具体的にはS45Cあたりをよく使うようにします。
S45Cは生材のままだとしても、SS400より強度が高く、引張強さが500~600N/mm2程度にまでなります。
さらにS45Cは、熱処理を加えることでより強度を増すことができ、引張強さが700~800 N/mm2程度まで向上させることができます。
それでもまだまだ強度が足りないということであれば、クロムモリブデン鋼(通称:クロモリ)が候補になります。
よく使うのはSCM435あたりです。
生材の時点で引張強さが900〜1000 N/mm2程度、熱処理を加えれば1200 N/mm2程度にまでなります。
ボルトの材質を見ても、4.xぐらいはSS400、5.x〜8.8ぐらいはS45C、9.8~12.9はSCM435といったように、強度によってこのように使い分けがされています。
ただし熱処理をすると、納期・リードタイムが長くなることに注意してください。
理由は、
などが挙げられます。
在庫品ではない場合、比較的小さな部品だとしても、早くて10日〜2週間ぐらいはかかるというイメージです
そんな場合にはステンレス鋼を検討するようにしましょう。
一応ステンレス鋼の主成分は「鉄」なのですが、
設計者の間では「鉄といえば、ステンレス以外の鉄剤」「ステンレス鋼は『ステンレス』『サス』」と呼ばれます。
ステンレス鋼は表面処理や油の塗布などをしなくても、通常の使用において錆びることはほぼありません。
また耐食性が良いこと自体メリットになりますが、表面処理が不要なので納期・リードタイムが短い傾向があるというメリットもあります。
「とにかく急いでいるからステンレス!」というのは、何度かやった経験があります笑
ただし、フェライト系・マルテンサイト系のステンレス(SUS4xx系)は空気中でも錆びることがあります。
そのため基本的にオーステナイト系(SUS3xx系)しか私は使いません。
ステンレス鋼について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
ステンレスの中でも基本となるのは、SUS304です。
理由としては、
等が挙げられます。
ボルト・ナットにもSUS304はよく使われます。
ただしSUS304は、切削加工がしにくいというデメリットがあります(できないことはないのですが・・・)。
そのため、溶接を使わない・切削加工で部品を作りたい場合は、SUS303を使用するのが良いです。
ちなみに、SUS304の材料の値段はSS材の3倍ぐらいするので、プロジェクトの予算は把握するようにしましょう。
SUS304は非常に耐食性が高いのですが、海水がジャバジャバかかるほどの厳しい環境においては、条件によっては腐食することがあります。
そのような過酷な環境の場合は、SUS316を使用しましょう。
材料の値段は非常に効果になりますが、SUS304の更に上の耐食性能があります。
また、高温環境への耐性もあることから、熱交換部品等に使われることもあります。
もし軽量化を求めるのであれば、アルミを検討するようにしましょう。
アルミの比重は鉄の約1/3なので、同じ体積なら重量が1/3になります。
樹脂のほうがもっと軽かったりしますが、あちらは加工精度が安定しなかったり、強度が非常に低かったり、熱に弱かったりするので、産業機械のメインの材料としては使いにくいです。
一方でヤング率も約1/3なので、ちょっと力を加えただけで簡単に歪んだり、たわんだりしますし、
強度も低いため、簡単に凹んだり、ねじれたり、壊れたりします。
設計者の多くが一度は通る失敗談です。なかなか理論通りにはいかないものです笑
また耐食性についてですが、アルミは何も処理を施さずに放置していると錆びて白っぽくなります。
このアルミの錆のことを、人によっては「粉をふく」なんて言っていたりしますねー
そのため、基本的には「アルマイト処理」をするようにしましょう。
アルマイト処理は様々な色を指定することができるのですが、特にこだわりがなければ「白」で大丈夫です。
アルミはちょっとものが当たっただけですぐに傷ついたりするので、アルマイトをしても傷のところから錆が発生したりするので、注意が必要です。
アルミの中でも基本とするのは、A5052です。
アルミの中では最も一般的な材料の一つで、中程度の強度・耐食性を持っています。
また、溶接性が高く、曲げ加工もできるので、設計の自由度が高いのも大きなメリットです。
ただ溶接性が良いとはいいつつも、鉄と比べると悪いので、溶接構造のアルミ部品はあまり積極的に設計で使いませんねー
もし耐食性を求めるのであれば、A6061を使うのが良いです。
A6061も産業機械ではよく使われる部品であり、A5052と比較をされることが多い材料なのですが、
A6061は「溶接性は低いが、耐食性が優れる」という違いがあります。
サッシとか外板とかで使われていたりしますねー
ちなみに、A5052よりも若干強度が高いというメリットもあるのですが、もし強度を優先するのであれば後述するジュラルミン系の方が優れています。
「強度もほしいが、耐食性の方がもっと重要」ということであれば、A6061が良いと思います。
軽量化は基本必要なんだけれど強度も欲しいという場合には、ジュラルミン系を使用しましょう。
比重は他のアルミと同様で鉄の1/3程度にも関わらず、強度が比較的高いです。
具体的には、
などがあります(耐力データは、西村仁著、
加工材料の知識がやさしくわかる本より引用)。
昔、アルミで定盤を作る際にジュラルミンを使った記憶があります。
ただし、ジュラルミン系は溶接・曲げが不可で、基本的に切削加工のみとなることに注意です。
もし「架台に強度がほしい」「鉄系を使いたい」のであれば、形鋼を使うのが良いです。
形鋼とは、よく鉄骨などで使われるH鋼とか、アングル材・Cチャンネル材などのことです。
材質はいろいろあるものの、基本となるのはSS400となります。
溶接する事もできますし、溶接をせずとも形鋼に穴を開けてボルト止めをするのも可能です。
形鋼は産業機械だけではなく、構造物などにも利用されています。
ただし、鉄は重たいので、移動・輸送をさせる場合にはリフターやクレーン(場合によっては吊りボルト・吊りピースなど)が必要となります。
また、溶接してしまうと個々の部品に分解できなくなるので
なんていう事故が起こらぬよう、設計時に「どこで分割するか」の検討も忘れずに行う必要があります。
なお、形鋼のラインナップについては、以下のページをご参照ください。
一方で「軽いやつがいい」「組立・分解の頻度が高い」のであればアルミフレームを使うのが良いです。
手軽に扱えますし、
研究開発の装置架台とか、ワーク用の治具のフレームとかに使ったりしますね。もちろん、アルミフレームを使った装置を設計し、それを納品することもあります。
またアルミフレームおよび専用のブラケットは、種類・サイズが豊富で設計自由度が高いです。
会社でアルミフレームを採用する際に、設計自由度が高すぎて担当者ごとの統一感がなかったりしたので、標準化したりもしてますねー
アルミフレームはアクセサリーも充実していており、
など、非常に便利です。
アルミのフレームだと、強度とか不安だな・・・
という人もいるかと思いますが、SUS(エスユーエス)というメーカーに問い合わせれば、設計した構造に基づいて強度解析してくれたりもします。
気になる方は、問い合わせをしてみてください。
ただし、アルミフレームのメーカーは複数社あるのですが、
各社形状がバラバラで基本的に互換性がないので、プロジェクト単位ではメーカを統一しておいたほうが良いです。
などといった場合には、板金で部品設計をするのが良いです。
板金部品はプレスで曲げて加工するのが基本ですので、比較的伸びやすい材料が好まれます。
私が設計する部品は板厚3mm以下のものが多いのですが、その中での材料の選定方針は、
といった感じです。
板金部品はある程度複雑な形状にすることが可能なので、強度については板厚や部品の曲げ方の工夫でカバーすることが多いです。
また価格については、SUS304は鉄の2〜3倍、A5052は鉄の5〜6倍ぐらいという感覚です。
基本的にはミスミのmeviyというサービスを使ってます。
より強度が欲しい場合には、SS400やSPHCなどを使いますが、ゴツい部品を使って板金加工するほど製作精度が悪くなる点に注意が必要です。
板金の加工限界については、以下の記事をご参照ください。
真鍮(黄銅)は、入手性が高く、加工もしやすい材料の一つです。
ただし、個人的には使用頻度は高くないです。
なぜかというと、銅は重いからです。
材料の比重を比較してみると、
鉄より重たいので、手に持ってみるとズッシリ来ます
銅は熱伝導率がよくヒートシンクの設計に使う、導電性がよく配線器具の設計に使うなどはありますが、それ以外の用途ではほとんど使わないです。
チタンは金属の中でも非常に耐食性が高いです。
ステンレスよりも耐食性が高いので、アクセサリーや医療機器なんかに使用されていたりします。
私は金属アレルギーがあるので、結婚指輪はチタン製のものにしています笑
さらに軽くて強度があるのも大きなメリットです。
軽くて強度が求められる業界といえば航空・宇宙産業で、これらにチタンがよく使われているとのことです。
ですが、一番の欠点は材料の値段が高いことです。
そのため、産業機械を設計する上ではほとんど使うことがありません。
今回は、私の経験をもとにして、材料選定の基本方針について解説しました。
業界や企業によって方針が違うので基本は勤め先企業の社内基準を参考いただければと思いますが、
という方は、この記事を参考にしていただければと思います。
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