【商品開発】試作品評価における失敗を避ける方法

開発 更新:

こんな人に読んでもらいたい

  • 試作品評価で手戻りをなるべく減らしたい!
  • スムーズに評価を終えて、スケジュールを遵守したい!
  • 試作品評価の基礎を学びたい!

こんにちは!共同執筆者のはちみつボーイです!普段は住宅設備機器メーカーで商品開発の仕事に携わっています。

商品開発に携わる方々は試作品評価を経験されたことがあると思います。中でもこんな経験はありませんか?

1ヶ月かけて実施した試作品評価の結果を上司に報告したら、指摘の嵐でやり直しに。

私もこれまで100種類以上の試作品評価をこなしましたが、多くの失敗と反省を経験しました。

私含め周囲の開発者達がどんな失敗をしているか。以下にまとめました。

  • 計測箇所や評価条件の見落としがあった。
  • 最悪条件で評価していたつもりが、最悪条件になっていなかった。
  • 評価はしたものの、結果の良し悪しを判断できなかった。

そんな皆さんの困りごとに対して力になりたいと思い、私の経験を元に上記のような失敗を避ける方法ををご紹介します。

評価項目を抜け漏れなく洗い出す

評価をする上で、そもそも何を評価するか?の項目検討に抜け漏れが発生してはいけません。

そこで、項目検討の抜け漏れを防ぐ方法をご紹介します。

実務では「JIS規格など法規で決められた評価だけやれば良い。」という訳ではありません。目的に沿って担当者が評価項目を検討します。

FMEAを用いて評価項目を検討する

不具合を未然に防止するフレームワークにFMEA(Failure Mode and Effects Analysis)があります。自動車業界で用いられることが多いですが、他業界のものづくりでも利用されています。

FMEAとは「製品の部品ごとの故障モード・原因・影響度合いを洗い出して対策方針を検討」するフレームワークです。

この説明だけではわかりにくいので、電気ストーブの設計検討を例に説明します。

こちらがFMEAの表の例です。

FMEAの作成手順は以下です。上表の左から埋めていくイメージです。

  1. 製品を構成する部品名を列挙し、機能を挙げる。
  2. 各部品の想定される故障モードを挙げる。
  3. その故障モードが発生する原因やメカニズムを挙げる。
  4. 故障モードが発生したことによる影響を挙げる。
  5. 危険度合いと発生頻度を考え、対策の優先度を決定する。
  6. 対策案を挙げる。
  7. 対策を検討し、実行する。

1.製品を構成する部品名を列挙し、機能を挙げる。

電気ストーブで例えると、以下のイメージになります。

2.各部品の想定される故障モードを挙げる。

故障モードとは「機能の損失を引き起こす状態」を指します。

各部品が機能を損失するには、何がどんな状態で壊れているかを検討します。

電気ストーブのヒーターで例えると、ヒーターの機能は「周囲の空気を温めること」なので、以下のようになります。

他にも故障モードの例は、Oリングが摩耗する・ネジが脱落するなどです。故障モードの分類を詳しく学びたい方は、JIS Z8115:2000のF2をご覧ください。

3.その故障モードが発生する原因やメカニズムを挙げる。

今回の例でしたら、「ニクロム線が断線する原因」を推定して記します。

  • 線径に対する電流値が大きく、許容温度を超える。
  • 過大な電圧が加わる。

などです。

4.故障モードが発生したことによる影響を挙げる。

故障モードが発生した際に、製品や使用者の周りでどんなことが起きるかを記します。

今回の例ですと、以下になります。

  • 製品が正常動作しない。
  • (通電中に断線した場合)漏電が発生する。

「死亡事故」に至るなど危険なものから「使用者が気づかないレベルで動き続ける」など、故障の種類によって影響は様々です。火災・漏電・漏水・感電・怪我・環境汚染など、危険な影響は抜け漏れなく洗い出しましょう。

5.危険度合いと発生頻度を考え、対策の優先度を決定する。

危険度合い、発生頻度についてそれぞれ評価します。それから、この2つの評価結果に基づいてその故障モードを「どの程度対策するべきか?」を決定します。

危険度合いと発生頻度について説明すると、以下のようになります。

  • 危険度合い:使用者に与える危害の程度です。例えば、
    • 軽傷なら1点
    • 中程度の怪我なら2点
    • 重傷なら3点
  •  発生頻度:類似の市場クレームの発生件数などから試算します。
    • 1件未満/出荷数なら1点
    • 1件以上100件未満/出荷数なら2点
    • 100件以上/出荷数なら3点

危険度合いと発生頻度の評価が終わったら、下のような評価表を参照し、危険度合いと発生頻度の点数を掛け合わせて優先度を決めます。

危険度合いと発生頻度の点数化ルールの詳細は、企業や製品によって様々です。

6.対策案を挙げる。

故障モードの発生を防ぐための対策案を検討します。

対策案の方向性には、

  • 設計:故障に至らない寸法や設計値にし、不具合の「発生」を防ぐ。
  • 製造工程:検査や部品選定で故障の原因を断ち、不具合の「流出」を防ぐ。
  • マニュアルでの注意喚起:警告文を記載することで、故障に至らないようにする。

などがあります。故障モードにもよりますが、基本的には開発者は設計での対策を第一に考えます。

DRBFMを用いて評価項目を検討する

一方で、従来からの変更点のみに着目して故障モードを洗い出すDRBFM(Design Review Based on Failure Mode)も活用できます。品質問題は従来からの変更点が起因で発生することが多いため、FMEAと比べて効率良く評価項目を検討することができます。

変更したことによって生まれる懸念点を挙げることがFMEAとの大きな違いです。DRBFMはFMEAより手間が少ないですが、「変更点がない箇所は問題ない」という前提で検討するので注意しましょう。

DRBFMは以下のステップで作成します。

  1. 変更箇所(部品など)を列挙する。
  2. 変更内容を挙げる。変更の理由も記すと、対策を検討する際に制約を把握しやすくなります。
  3. 変更内容に関わる懸念点を挙げる。
  4. 懸念点から生じる故障モードを挙げる。FMEA同様、故障原因も記すと対策を検討しやすくなります。
  5. 影響、危険度合い、発生頻度を考え、対策の優先度を検討する。
  6. 設計での対策案を挙げる。

表の埋め方などはFMEAと同様なので、割愛しますね!

これまでの話をまとめるとFMEA/DRBFMを用いた評価項目の検討は、

  1. 各部品の故障モードと原因を洗い出す。
  2. 影響が大きいものは、設計にて対策する。
  3. その設計にて故障モードの発生を防げるかの評価方法を検討する。

のように行います。

FMEA/DRBFMは担当者ひとりで行わずに、他の知見者や品質保証部、製造部など関係者全員で議論しながら行うと良いです。あらゆる視点で故障モードを洗い出し、評価項目の検討漏れを防ぐことができます。

過去に開発した既存・類似商品の評価結果を活用する

会社が過去に開発した商品の評価結果報告書を参考にして、「今回はこの耐久性評価をすべきか?」などと評価項目を検討・確認します。

開発した商品が既存商品との変更点が少ない場合は、抜け漏れ発生を低減できます。

一方で、製品の構造や機能に関して新規性の高い設計は、過去の評価項目や結果を参考にできない場合が多いです。このような場合には、そのプロジェクトの担当者で評価項目を検討する必要があります。

過去の開発プロジェクトだけでなく、品質不良の事例の記録も参考になります。

市場で起こりうる最悪条件で評価を行う

市場に出た後に不具合を発生させないために、起こりうる最悪の条件で評価する必要があります。

最悪の条件とは部品の機能を損失させる因子のバラツキが、最も悪い側になる条件です。

先ほどのヒーターの例で説明すると、以下の図のようになります。

部品機能に影響を与える因子は大きく3つに分かれます。

  • 外乱:使用環境によってバラつく因子
  • 内乱:部品の劣化によってバラつく因子
  • 製造工程:寸法など製造工程によってバラつく因子

それぞれどういうものが該当するのかをまとめたのが以下の図になります

上記3種類の枠組みで因子を洗い出すと、抜け漏れが少なくなるのでオススメです!特に外乱の因子は商品コンセプトによって決まりますので、企画との整合性を意識しましょう。

ただし、ここで難しいポイントがあります。

想定すべき因子が漏れたりバラツキをあまく見積もると、適切な評価にならず市場で不具合が起きる可能性が上がります。

一方で、あらゆる因子が最悪条件でも成立することを狙うと、コストがかさむため現実的な設計になりません。

そのため、実際には各因子への対策の優先度を考慮して、確認する因子を絞り込みます。

最悪条件の検討にはタグチメソッド(品質工学)というツールがよく用いられます。興味のある方は参考にしてみてください。

「品質工学って何?」という方におすすめの書籍はこちらです。

小説仕立てで説明されており、品質工学の基礎をスムーズに理解できます。

社内の設計思想も考慮する

最悪条件で評価する上では、社内の設計思想も考慮しなければなりません。

例えば、

  • 明らかに異常な使われ方をした場合は、性能を担保しない。
  • 使用禁止と指示している環境で使用された場合は、性能は担保しないが安全性は担保する。
  • 使用禁止と指示しても誤って起きる可能性があるなら、性能も担保する。
  • 部品Aが故障しても、必ず安全性を担保する。

などです。設計思想の規定がある企業では、これについても調査しましょう。

評価基準を確実に調査する

最後のポイントは、評価基準を確実に調査することです。

評価基準というのは例えば、

  • JISなどの法規で定められた評価基準
  • 法規にはない、あるいは法規よりも厳しい企業独自の基準

です。

いくら評価項目や最悪条件に関して適切な検討ができても、評価基準の調査不足や理解不足があれば正しい評価が成立しなくなります。

私の経験上、初めて扱う国際法規の評価基準では特に調査不足・理解不足が発生しやすいです。

何故かというと、

  • 内容が膨大で見落としが多くなる。
  • 慣れない外国語だと理解がしにくくなる。
  • 社内での知見の蓄積が弱い。

場合があるからです。

社内ではOKだと思っても、認証機関からの改善通知で評価基準の見落とし・理解不足に気づき、設計を再検討したこともあります。

※認証機関:対象の製品の基準適合性を第三者目線で確認し、認証する機関。基準に適合しない場合、「改善通知」として不備を指摘します。

法規の基準に適合しないと商品を発売できないので、以下のような手段をとり評価基準を確実に調査しましょう。

  • 大きな企業に勤めているのであれば、その法規に詳しい社内の仲間に相談する。(必ず社内にスペシャリストがいたりします)
  • 自身の理解や判断基準が曖昧なところは、認証機関の担当者に確認しながら審査を進める。
  • 海外の法規は必ず現地の仲間(支社の担当者等)と密な連携をとって理解に努める。

まとめ

今回は、試作品評価を上手に進める方法をご紹介しました。

  • FMEAや過去の評価結果を活用して、評価項目を抜け漏れなく検討する。
  • 部品機能に影響を与える因子を洗い出して、最悪条件を検討する。
  • 慣れない国際法規の評価基準は一層注意して理解に努める。

いかがでしたでしょうか。試作品評価をこれから進める上で参考にしていただけたら幸いです。

読んでいただきありがとうございました。

りびぃ

この記事を書いた人

機械設計エンジニア: りびぃ

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