機械設計の考え方【力学的に最適な設計=最良の設計ではありません】

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はじめて機械の設計をするけれど、どういう考えで設計したらいいかわからない。過去のものを参考にしてみても、そのような設計に至った経緯がわからない。何かオススメの資料みたいなのがあったら教えて欲しい。

このような疑問・悩みをお持ちの方へ、お答えしていきます。

私は現在、機械メーカーの正社員として5年目です。会社ではチームで仕事をしていきますが、最近は上司から「こういうことができる装置をなんか考えて!」と、一部の装置についての設計を一任されることが多くなってきているところです。

私が入社して間もない頃、教育の一環として、「〇〇の機能を満たす治具を、構想を練るところから詳細設計まで全て自分でやった上で、自分で図面を作成する」よう上司から指示されました。

はじめての設計だったため、最初はめちゃくちゃテンションが上がっていたのですが、いざやってみると全く手が動かなくなりました。

なぜなら、大学の期末テストのように「既に答えが用意されている問題を解く」のはたくさんやってきたのですが、
設計業務のように「明確な答えがなく、問題を自分で見つけながら自分なりの答えを図面に落とし込んでいく」というのをやったことがなかったためです。

そんな苦労した経験から、機械設計はどのような考え方で進めていけば良いか、またこれに関して参考となる書籍などについてお話ししていきます。

力学的に最適な設計=最良の設計 ではありません

いざ設計をするときには、まず構想をある程度練ったあとに、テキストや技術資料などを参考にして、部品の強度・装置の能力を計算していきます。
そして、自分が考えた構想が部品や装置として成立するかを確かめ、図面に落とし込んでいきます。

設計未経験の人が陥りやすいのは、計算で成立した条件をそのまま図面に描くことです。

例えば「材料力学の教科書をもとに強度計算をしたら、板厚が7.5mm以上の鉄の板であれば強度上問題がない」という計算結果が出たとしましょう。
では、その部品の板厚を7.5mmとして図面を描けばよいかというと、そういう訳ではありません。

当時の私は「力学的に最適な設計をすれば、部品の重量を軽くすることができて、材料費も安くなる!1gでも軽くて、1円でも安いものを作りたい!」という考えで設計をしていました。

しかし、その考えだけではダメです。その理由は以下のとおりです。

  • 材料力学で計算したモデルが、100%現実に起こることはないから
  • 数gだけ軽くても、メリットがほとんどないから
  • 材料費は安くならないから
  • 加工費がかかるから
  • 納期が長くなるから

材料力学で計算したモデルが、100%現実に起こることはないから

強度計算や能力計算など、設計に関する計算をする際には、必ずモデル化を行います。

「片持ち梁」や「両端支持梁」など、「方程式を適用して計算をする上で、○○とみなす」ことを、モデル化といいます。

モデル化をすることによるメリットとして、モデル化をすることで、「○○したら、どうなるか」という予測を、ある程度の精度でできるということです。

モデル化をしないとすれば、寸法の違う部品をたくさんそろえて、都度実験しなければならなくなります。

これでは、時間とお金がいくらあっても足りません。

そもそも、モデル化をすることで、ある程度の精度で評価することができ、そのように発展してきたのが「材料力学」という学問です。

これは、コンピュータを使った解析でも同じです。

逆に、モデル化のデメリットとしては、100%の予測ができないことです。

未だにものづくりに関わるすべての現象について、高い精度で予測ができるわけではないのです。
摩擦力などが代表的で、条件によってかなり値がばらつきます。

機械に最も使われるネジ・ボルト・ナット関係は摩擦力で部品を固定しているため、当然、締め付けトルクに対して発生する軸力はばらつきます。

そのため、最適設計をしたつもりでも、実際に作った装置を使ってみると、予想以上に材料に負荷がかかっているといったことが発生するのです。

数グラムだけ軽くても、メリットがほとんどないから

「軽ければ軽いほど材料費が安くなるから支出が減る」というのは、ある意味正しいですが、数グラムだけ軽くなったところで、微々たる値段しか安くなりません。

機械メーカーでは鉄鋼材料を良く使いますが、鉄鋼材料の材料費はどの程度かというと、
1kgあたり70~100円程度です。

おおよそ、コンビニやスーパーで買う「水」と同じぐらいです。

そのため、数グラム軽くしたところで、1円安くすることすらできないのです。

ただし、ロケットなどの宇宙産業では、打ち上げにかかるコストが1kgあたり100万円オーダーにまでなるので、グラム単位の軽量化でも効果が高いかもしれません。

材料費は必ずしも安くならないから

売られている材料のサイズは、とびとびの寸法となります。

例えば、SS400という種類の鉄板を買いたいと思ったら、売られている鉄板の厚さは、
1.6mm、2.3mm、3.2mm、4.5mm、6.0mm、9.0mm、12mm・・・
しかありません(たまに上記以外の板厚の鉄板が売られていることもあります)。

板厚7.5mmの鉄板が必要だと思っても、そもそも売っていないので、結局のところ板厚9.0mmを買うことになるのです。

材料費が安くなるように最適設計をするのであれば、6.0mm以下の板厚で成立するような構造を考える必要があります。

しかしそれでも、鉄板の値段はコンビニで売っている水と同じぐらいであるため、装置の総重量が大きくない限りは、あまりメリットがありません。

加工費がかかるから

板厚7.5mmの鉄板は売られていないですが、「どうしても板厚7.5mmの材料を使いたい!」ということであれば、決してできない話ではありません。

通常の場合どうするかというと、9mmの鉄板を買ってきて、板厚が7.5mmになるように加工屋さんで削るのです。

そのため、9mmの鉄板の材料費+加工費がかかります。

加工費は時間あたり○円といった感じでかかってくるので、板厚9mmの材料を使う場合よりも値段が高くなってしまうのです。

納期が長くなるから

これは、加工費の話とも絡んでくる話です。

板厚7.5mmの材料を使うには加工が必要なので、加工する時間がかかります。

さらに場合によっては、加工が終わったあとに「本当に7.5mmで出来上がっているか」を検査・測定する必要があります。

検査費がかかることはもちろん、検査をする時間もかかるため、製品が出来上がるまでに時間がかかります。
また、加工屋さんが混んでいるときは、加工してもらうのは順番待ちになるため、そこに時間がかかることも多いです。

たまに「大した部品ではないのに、なんでこんなに納期がかかるの?」と言う人を見かけますが、一度図面を見直してみてはいかがでしょうか。

なるべく標準のものを使おう

設計というと「自分で考えたオリジナルなものを考える仕事、クリエイティブな仕事」という印象がある人がいると思います。

確かにそのような能力を要求される場面はなくはないですが、基本は標準で既にあるものを組み合わせて装置を設計することが多いです。

標準のものはメリットが多い

標準のものを使うことによって、無駄な加工費・検査費が削減できることが多いです。

標準の材料の寸法は、JISで許容誤差が決められていたり、メーカーのカタログで寸法や公差が掲載されているため、材料の寸法が保証もされていたりもします。

JISは日本工業規格のことで、材料の寸法や化学成分、製品の性能や試験方法などについて定めた国家規格です。

このあたりの考え方は、以下の本が参考になります。

機械設計をやる上で持っておくべき根本的な考え方について、詳しく解説がされている良い本です。

まとめ

今回のポイントをまとめると次のようになります。

  • 最適設計が最良のものであるとは限らない
  • 一般的な機械の設計の場合、最適じゃなくても良い
  • こだわりの度がすぎると、無駄に費用がかかったり、納期がかかったりする
  • 標準のものを使うと、割と無駄が少ない

ちなみに私のはじめてのその設計は、図面が20回以上シュレッター行きになり、結局終わるのに3ケ月ぐらいかかってしまいました。

当時の私は「設計ってめちゃくちゃ難しい・・・」と激しく落ち込んでいましたが、今の私であれば、たぶん1週間程度でできます。

やはり機械設計は「理論」だけ学んでいてもダメで、粘り強く経験を積み重ねていかなければならない仕事ですね。

今回は以上となります。

ご一読、ありがとうございました。


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りびぃ

この記事を書いた人

機械設計エンジニア: りびぃ

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