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機械設計に関わる仕事をするなら、どの業界の人だろうと確実に身に着けておかなければならないのが、「ねじ」や「ボルト・ナット」に関する知識です。
それは、どんな機械を作るにしても、ねじがほぼ確実に使われるからです。
そんな幅広い分野で使用される「ねじ」や「ボルト・ナット」ですが、今も昔もトラブルが絶えません。
私が前職で働いていた大企業での過去トラ集(過去に起こったトラブル集)を見てみると、昔から最近に至るまで、ねじ関連トラブルが発生していましたね。
では、ねじに関するトラブルとはどんなものがあるのでしょうか?
國井良昌著「ねじとばねから学ぶ!設計者のための機械要素」によると、ねじのトラブル件数ランキングは以下の通りであると述べられております。
これを見ると、第1位が「ねじばか(ねじ山の破損)」、第2位が「破断」となっています。
これらのトラブルの原因はいくつか考えられますが、そのうちの一つに「ねじの強度」が挙げられます。
教科書的に述べると、ねじの強度については「強度区分」であるとか「保証荷重」あたりを見て評価をするのですが、実際の設計においては「重要箇所以外はなんとなくの感覚」で選定されていることが非常に多いです。
ただ、これらが不適切に評価されてしまっていると、ねじ山が変形してしまったり、ねじそのものが破壊され、その結果、先程述べたようなトラブルが発生してしまったりします。
トラブルが起こってから対処するよりも、そもそもトラブルが起こらないよう、知識を身に着けておきたいですよね。
そこで今回は、ボルトやナットの強度区分や保証荷重について、詳しく解説していきます。
この記事を読んで、ボルトやナットを正しく選定し、ねじのトラブルを減らすことに役立てていただけたら嬉しいです。
強度区分とは、ねじ強度の観点から振り分けた、ねじの分類(区分)のことを言います。
並目ねじだけではなく、細目ねじにも適用されるものですが、メートルねじではないタッピングねじや管用ねじなどには適用されません。
強度区分は、鋼製ボルトでよく見かけるという人も多いかと思いますが、実はものによって表示方法が若干違います。
表示方法ごとに分類すると、以下の3種類があります。
以下、これらについて一つずつ解説していきます。
鋼材のボルトやおねじの強度区分は、「4.8」だとか「12.9」だとかというように、2つの数字を点で区切って表示します。
数字が大きいほど強度が高いことには変わりないのですが、数字を見る際は、「4.8」という1つの数字ではなく、「4」と「8」という2つの数字として見ます。
まず点の左側の数字は、引張強さを1/100した数字を示しております。
そのため、4であれば引張強さは400N/mm2、12であれば引張強さは1200N/mm2となります。
一方で点の右の数字は、「降伏応力または0.2%耐力が、引張強さの何割であるか」を示しています。
そのため、「4.8」であれば「4×100×0.8=320N/mm2」が降伏応力または0.2%耐力、「12.9」であれば「12×100×0.9=1080N/mm2」が降伏応力または0.2%耐力という意味になります。
ボルトであれば、ねじ頭の面やねじ頭の側面に刻印されていることが多いです。
強度区分は無限にあるわけではなく、基本的には以下の9種類しかありません。
一般的なボルト | 4.6 | 4.8 | 5.6 | 5.8 | 6.8 | 8.8 | 9.8 | 10.9 | 12.9/12.9 |
負荷能力の低いボルト | 04.6 | 04.8 | 05.6 | 05.8 | 06.8 | 08.8 | 09.8 | 010.9 | 012.9/012.9 |
最後の「12.9」と「12.9」の違いは、焼戻し温度の違いです。
12.9は焼戻し温度425℃、12.9は焼戻し温度380℃であるのですが、強度が大きく変わることはありませんので、あまり気にしなくても良いです。
また、頭に「0」をつけて表示しているものは「負荷能力が低いボルト」という意味です。
皿ボルトや低頭ボルトなどは、一般的なボルトよりも負荷能力が低くなるため、それと区別するために、頭に「0」をつけて表示します。
詳細については、以下に掲載しております。
「じゃあ、全箇所に12.9を使えばいいじゃないか」と思うかもしれませんが、そうもいきません。
ねじは締め付けた際に弾性変形をさせることによって、軸力を発揮します(これを適正軸力といいます)。
強度区分の高いボルトであるほど、適正軸力が高くなるのですが、その軸力に母材が耐えられなければなりません。
そのため、母材を損傷させない程度の軸力で、かつしっかり部品を固定できるようなねじを選択する必要があります。
なお、特に強度区分12.9のボルトおよび14.9のボルト(JISからは廃止されましたが、ボルト自体は入手可能です)の長期使用は、遅れ破壊の懸念があることから推奨されていません。
詳しくは以下の記事で解説していますので、興味のある方は参考にしてみてください。
ナットの強度区分の表し方は、ボルトとは少し異なり、「そのナットに組み合わせて使うことができるボルトの最高強度区分」を用います。
そのため、「強度区分 4」のナットに適用できるのは「強度区分 4.8」のボルトが最高ですし、「強度区分 8」のナットならば「強度区分 8.8」が最高となります。
たまに「10T」などのように「T」がついているものがありますが、これは旧JISのナットであることを示しています。
また、ナット高さの最小値が「0.45d≦h<0.8d」である低ナットは、ナット高さの最小値が「0.8d≦h」である通常のナットよりも負荷能力が低くなります。
そのためJISでは、低ナットと通常のナットとを区別をするため、低ナットの場合は「04」などのように強度区分の頭に0を付けて表示します。
ステンレスの強度区分の表示方法は、鋼製ボルトの場合とは大きく異なり、、ハイフン「-」を使って、「(鋼種区分)-(強度区分)」という形で表します。
鋼種区分とは、ステンレス鋼の種類を2文字の記号で表したもので、A2とかC1とかと表します。
各アルファベットの意味は以下のとおりです。
オーステナイト系の中で、「A4L-80」のように「L」が付いているものは「低炭素(Low Carbon)」という意味で、普通のオーステナイト系よりも耐食性が高い材料のことを指します。
(※「L」をつけるのはあくまで明示することが目的であり、義務ではありません。低炭素でも「L」が表記されていない場合もあります)
強度区分の2桁の数字は引張強さの1/10を表します。
引張強さの表記方法が鋼製ボルトと異なるので、ちょっとややこしいですね。
「A4-80P」のように、強度区分の数字の後ろにPが付いているものは「不動態化処理がされている」という意味です。
通常のステンレスにも不動態膜はあるのですが、、不動態化処理をすることにより強固で安定した不動態膜を形成させ、耐食性を向上させているというものです。
ステンレスねじの強度区分は以下にまとめています。
ここまで、炭素鋼やステンレス鋼のねじについて述べてきましたが、それ以外にもねじは銅やアルミ製のボルトや、橋梁などに使う高力ボルトなど、様々あります。
先述した強度区分は、あくまで炭素鋼やステンレス鋼のねじに対して適用されるもののなので、それ以外のねじには強度区分はありません。
ただ、そのようなねじについても、引張強さや0.2%耐力などのデータ自体は存在するので、それを使って計算や設計に活用することは可能です。
銅合金やアルミ製合金については、JIS B 1057にて強度が規定されています。
以下の記事にデータをまとめていますので、よろしければご活用ください。
また高力ボルトについては、強度区分の代わりに「等級」というものが用意されています。
JIS規格品である摩擦接合用高力六角ボルトは「F8T」「F10T」といったように、JIS規格品ではないが一般的に利用されるトルシア型高力ボルトは「S10T」といったように、区分分けがされております。
この8とか10とかという数字が、引張強さの1/100を表しております。
詳細はこちらのサイトに掲載されております。
JISを見ると、強度区分のほかに「保証荷重」というものが掲載されております。
保証荷重とは、「ねじの軸方向に引張荷重を15秒間加えたあとに除荷したとき、ねじの破壊や有害な永久ひずみが発生しないことを保証する荷重」のことを言います。
つまり、この保証荷重以下の荷重であれば、ねじ山が破壊されないだけではなく、除荷後に試験に使用したねじに対して、手回しでねじの付け外しが可能であることが保証されます。
保証荷重を有効断面積で割った「保証荷重応力」は、降伏応力や0.2%耐力の約90%程度の値となっており、少し余裕を見ていることがわかります。
なお、機械設計においては、この「保証荷重」でねじの強度を見ることを推奨します。
機械はねじを締めるところまで考慮したらOKではなく、メンテナンスの際にねじを取り外すことまで考える必要があるからです。
ねじを取り外すときにねじ山が変形していると分解できませんし、無理に力を加えると、ねじががじりついたり、ボルトがねじりで破断してしまったりします。
実際、こういったことが起こっているため、冒頭に述べたようなトラブルが発生しているのだと考えられます。
JISで規定された強度区分に関するデータは、「環境温度が10℃~35℃の範囲で試験が行われたもの」というのが前提になっていることに注意してください。
材料の強度は、これよりも高い温度、または低い温度で変化します。
材料が高温になると材料が軟化するため、強度が低下してしまいます。
一方で材料が低音になると硬さが増すのですが、そのかわりに靭性が失われるので脆くなるため、衝撃等が加わるとボキッと折れてしまうためです。
暑い地方・寒い地方、またボイラーや低音タンク等でねじ・材料を使う際には、十分に注意してください。
材料の温度上昇に伴う強度の影響については、以下の記事に示しております。
ボルト・ナットの降伏応力や保証荷重のデータは、「静荷重」で試験をした測定データです。
そのため、衝撃や振動等が加わる場合は、この保証荷重に対してさらに安全率を掛ける必要があることに注意が必要です。
材料の安全率の目安は、業界や企業ごとに目安があると思いますが、特にねじの場合、形状が不連続で応力集中が起こりやすいので、多めの安全率を設定することをおすすめします。
以前、解析専任者の方と話をしていたときに、こんなことを言っていました。「ねじなんて、応力集中の塊だからねぇ。そもそも許容応力も、有効断面積で計算しているけれど、どちらかというとねじの谷径で計算したほうが安心かも。」ねじのデータの信頼性はそんなもんなのかもしれないですね。
今回のポイントについてまとめると、以下の通りとなります。
今回は以上となります。ご一読ありがとうございました。
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【解説】ねじの役割・機能について
ボルト・ナット 強度区分および強度一覧