機械メーカーの正社員として、設計職に就職を希望しているけれど、そもそも設計って何をするのかなぁ。なんとなく、図面書いたり、計算したり、たまにシミュレーションしたりって感じ?。
このような疑問をお持ちの方へ、お話ししていきます。
私は現在、機械メーカーの設計5年目として仕事をしています。
最近は後輩も少しずつ増えてきたおかげで、自分の仕事のみに集中するのではなく、後輩の仕事の進捗にも気を配りながら仕事をすることが増えてきました。
そんな中、たまに後輩と仕事の話で「最近は順調?」みたいな話をすると、何人かに一人は「機械設計の仕事って、就職前に想像していたものとぜんぜん違うなぁっていうのを最近思っています。」というような話が返ってきます。
実は私も、そのようなことを思ったことがあります。就活しているときには「機械設計」=「図面をバリバリ書いて、必要な計算をガリガリやっていく」みたいなイメージを持っていました。
機械メーカーの設計業務というと「解析」や「図面の作成」ということがイメージしやすいですが、これらの仕事は外注することも多いです。大手機械メーカーの正社員の設計業務は、プロジェクトをマネジメントするのがメインとなります。
でも実際は、図面そのものを描く仕事は外注することがほとんどです。また、計算をするのはプロジェクトの設計段階では行いますが、設計段階が終われば計算をすることはほとんどありません。
機械設計の業務手順を理解しておくことで、「機械設計なのに、なんで設計以外の仕事をやらなきゃいけないのか」と悩んだり、「こんな仕事とは思わなかった」と、就職してから後悔することがなくなります。
機械設計の業務手順について、大きくパターンを分けると、「量産品」を扱う場合と、「受注生産品」を扱う場合になります。
これらについて、詳しく解説していきます。
会社によって多少異なりますが、量産品の機械設計の業務は、だいたいこのような手順です。
量産品は「ヒットすれば大きく儲けるが、ヒットしなければ儲からない」というのを短いスパンで繰り返す業界であり、設計業務の特徴はだいたい以下の通りです。
量産品でよくあるのが「はじめにコアな技術を開発して販売し、その後改良版をあらためて販売する」という販売戦略を行うことです。
例えば、Nintendo Switchのあとに、Nintendo Switch Liteを販売するような感じです。
ではなぜ最初から2つのラインナップとせずに、このように段階を分けて売るのでしょうか?
それは、最初から100点を目指した製品を作るのはリスクが大きいからです。量産業界の最大のデメリットは「売れなかったら全て在庫になる」ことです。
どんなに設計の人が「100点の製品だ!」と言い張っても、お客さんが「5点」だと評価すれば、その製品の価値は「5点」しかありません。
売れない製品は生産が中止され、在庫はゴミとして処分されます。
そのため、売る確率を可能な限り向上させるために、最初の新商品の販売では「コアとなる技術や機能が売れるかどうか」を最大の目的とし、在庫リスクを回避するために生産数を限定します。
そして、企画の段階から設計が参入したり、納得いくものができるまで設計・試作・試験を繰り返すのです。
めでたく売れた場合、量産品では「より多くの数を売ること」「より幅広いニーズに応えること」が次の段階の目標となるため、増産体制を整えたり、製品のラインナップを整えたりします。
例えばiPhone Xは、2017年の11月に販売開始しましたが、約10ヶ月後の2018年9月には公式ページからの販売が終了し、同時に改良版として、iPhone XS、XS Max、XRを販売開始しております。
iPhone Xのコアな機能としては「ホームボタンや指紋認証が廃止し、顔認証を採用」したことでしょう。iPhone Xは売上が好調であったことから、その改良版として、
といったラインナップを揃え、より多くのニーズに応えているのです。
設計業務がひと段落すれば、「いかに効率よくものを作るか」は生産部門の、「いかに売り込むか」は営業部門の役目となります。
こちらも会社によって多少異なるのですが、受注生産品の機械設計の業務は、だいたいこのような手順です。
受注生産品は「1〜2件受注できたらOK」というのを長いスパンで繰り返す業界であり、設計業務の特徴はだいたい以下の通りです。
受注生産品は、その名のとおり「先に受注してから、生産を始める」ため、製品を作っていなくても受注ができた段階で、売上がほぼ確定します。
また、受注をするまでは生産をしないため、量産品のような「売れなかったら、在庫を処分」といったことは発生しません。
ここまで聞くと、ラクチンな商売のように思えますが、そんなに甘くはありません。
受注生産品のデメリットは、「試運転をするまで、客先からの要件が満たされているかがわからないこと」「最終段階になるまで支出がわからないこと」です。
そのため、受注生産品は「見積」が命となります。
その見積業務の主体となるのは、設計です。
「設計なのに見積?」と思うかもしれませんが、その理由は、お客さんに見積を出すためには何をしなければならないかを見ればすぐわかります。
お客さんに見積を出すためには、
などをする必要があります。
受注生産品は技術的に専門性の高い製品であることが多いので、設計が主体となって業務をする必要があるのです。
さらに、受注生産品の場合は、そこにリスク回避のための金額やアフターサービスなどのオプションを上乗せすることもあります。
受注生産品は製品の実体がない状態でお客さんと契約します。
ということは逆に言うと、いくらお客さんに対して「弊社の製品は高品質です!」と言ったところで、試運転が完了するまでは品質を100%証明できないのです。
当然、実際に製品を作り始めたり、試運転をして初めて発覚する不具合や問題もあります。
発覚する不具合や問題を対処するには、当然お金が必要です。
例外はありますが、基本的には一度契約をしてしまったら、それ以上の金額は請求できません。
そのため見積の段階で、もし失敗してもある程度対処できるようなお金を含んでおいたり、赤字になったとしてもアフターサービスの業務で回収するためにオプションをつけて、お客さんに売り込んだりします。
ただ、お客さんが製品の購入を検討しているのは、必ずしもあなたの会社だけではありません。リスク回避のために見積金額を高くしたり、余計なオプションをつけすぎると、当然競合他社に仕事を取られてしまいます。
他社に仕事を取られてしまったら、もうその先は何もありません。
例えば、発電所を建てるにしても、あらかじめ発電能力を100%保証することはできませんので、
「何も問題がなければこれぐらいの金額」にプラスアルファで見積金額に上乗せしたり、数年に1度の定期点検・メンテナンスも込みで受注し、赤字分を回収したりするのです。
たかが定期点検・メンテナンスと思うかもしれませんが、「そろそろこの装置が寿命なので交換した方がいい」となった際に、発電所のほんの一部の装置でさえ、1件あたり億を超えることも珍しくありません。
機械設計の業務手順はわかったけど、じゃあ一通りプロジェクトをこなせば一人前になれるか?
と思う人がいるかと思いますので、お答えします。
確かに、基本的な業務の流れとしては、今回お話したものから大きく変わることはありません。
しかし、一通りプロジェクトをこなした経験があっても、それが今後通用するとはかぎりません。
例えば、今は自分が勤める会社がシェアを独占しているけど、数年後には他社にシェアを取られたなんてことも、珍しくありません。
気がつけば、あなたが関わっている業界もGAFAが参入してくる可能性だってあります。
また、今までの当たり前の技術が、気がつけば過去の遺産となるケースも、珍しくありません。
機械設計で生涯確実にメシを食べていけるような方法は、ありません。
機械メーカーは安定職ではないからです(そもそも安定職なんて、今の時代ないと思いますが)。
ただし、量産品、受注生産品の製品設計のどちらをやるとしても、「世の中の動向を常にリサーチすること」はやっておくべきです。
早い話が「ニュースを読みましょう」ということです。
ニュースといっても、殺人事件や、芸能ニュースを見ていても、機械設計に役立つことはあまりありません。
何の記事を読むかというと、その業界のビジネスニュースや、事故、法律、政治などのニュースです。
定番どころとしては、「日経ビジネス、「MONOist」あたりをチェックしておけばOKです。
なぜニュースをチェックする必要があるかというと、機械メーカーの業界は、これらの時事の影響を強く受けます。
量産品を扱う場合はイメージがしやすいと思います。
量産品の「企画」の段階においては、世の中のトレンド、流行っているものを捉えることが重要となります。どんなにいい製品を作っても、世の中のニーズや、その環境によって、製品が売れるかどうかがある程度決まります。
例えば今、ゲーム業界が非常に盛り上がっており、「ゲーミングパソコン」を購入したユーザーがインターネットを通じた対戦などを行っております。
しかし、インターネットに繋ぐための電波がほとんど届かないような地域では、「ゲーミングパソコン」はほとんど売れません。
しかし、その地域でインターネットの電波が届くようになったという情報が入ったらどうでしょう。
売り込みは早い者勝ちです。
受注生産品を扱うメーカーでも「環境問題を意識するようになってきた」とか、ある事故をきっかけに「新しい法律ができた」ということが起こると、作る製品に大きな影響があります。
例えば、石綿(アスベスト)は耐熱性、絶縁性、保温性に優れることから、 昔は建築業界で多く使用されており「奇跡の鉱物」とまで言われていたそうです。
しかし、人体への健康被害が大きな問題となり、最近では非常に厳しい規制が掛けられております。
そのため、今ではアスベストはほとんど使われません。
このような場合、アスベストの機能に代替するものを探さなければなりませんし、場合によってはその代替品が使えるものかどうかをテストする必要があります。
これをクリアしないと、自社の製品を売ることが法律的に禁止されます。
事故のニュースが出たときも「ひどいなぁ、残念だなぁ」で終わるのではなく、二度と事故が起らないようにするために、テクノロジーの観点から解決できないかと考え、実現していくことが求められます。
ポイントをまとめますと、次のとおりとなります。
このあたりのポイントを抑えておけば、よい社会人生活を送るためのスタートが切れるのではないでしょうか。
今回は、以上となります。
ご一読ありがとうございました。
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