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こんにちは、はちみつボーイです!
私はメーカーで商品開発の仕事をしていますが、仕事内容はその名の通り「商品を開発すること」です。
分かりやすい例を挙げると、
などなどです。
もちろん、私のように商品開発に携わっている皆さんにとってこのような業務は重要です。しかし、それと同じくらい重要なのが「開発した商品が他社から模倣されるのを防ぐこと」です。
というのも、商品開発の世界では本物よりも低品質で模倣されたものが安価で売られることが頻繁に起きるからです。
例えば、以下のような事例が模倣品が世に出回ることがあります。
株式会社ワーク公式HPより事例を引用:詳細はこちら
このような模倣品の被害は多くあり、私も担当商品が模倣された経験があります。
せっかく時間と情熱をかけて開発した商品が、悪質な形で他社に模倣されたら悲しいですよね。会社の利益損失にもなります。
そこで、このような被害を防ぐためにこの記事で解説する「意匠権」が大事になります。
「意匠権」に関する知識をおさえて、発売後の模倣対策を見据えた商品開発をしましょう!
具体的には、意匠権の要件や効力の範囲、出願や審査の流れを理解することにより、
などの利点に繋がりますので、是非この機会に学びましょう。
「意匠権」とは、物品や建築物の形状、模様、色彩で、視覚を通じて美感を起こさせる意匠(デザイン)を守る権利のことです。権利を取得するとそれが唯一無二のデザインであることが証明され、模倣品の販売・製造の差止請求や、損害賠償請求を実施することができます。
意匠権は特許権や実用新案権と似ていますが、これらとは違って美感など情緒的な価値を有したデザインを守る権利です。
とはいえ、商品開発をされている方は、
意匠権は自分達ではなくデザイナーさんが取得するイメージですが・・・
と、感じる方もいると思います。
確かに大手のメーカーであれば商品開発部とは別にデザイン部といった組織が存在し、いわゆるクリエイティブ職と呼ばれる方々が商品の外観デザインを担当します。ところが、クリエイティブ職が行うのは商品コンセプトのデザインまでの作業しか行いません。
そこから先の、詳細図面の作成は商品開発者の仕事です。この詳細図面は商品を量産するのに必要なのはもちろん、意匠権の出願にも必要なものです。なので、意匠権の出願を念頭に置いて図面作成ができるよう、商品開発者でもしっかりと意匠権を理解しておくことが重要なのです。
私の経験上、商品開発者は商品の機能への探究心はあるものの、意匠には興味がないという人が多いです。でも実は意匠を重要視しない商品開発には限界があると言っても過言ではありません。
なぜかというと、多くの消費者は商品を選ぶ際に、機能の違いだけでなくデザインやブランドの好みを元に購入しているからです。
例えば住宅用エアコンの機能面の価値で言うと、
などです。
しかし、業界全体で開発競争が活発になると、ほとんどの企業が似たような機能を搭載します。
結果として、一般消費者からは「どこの会社も似たようなもの」に見えてしまうことになります。
この状況をコモディティ化と言います。
このコモディティ化ですが、昨今はあらゆる商品カテゴリーで起きやすくなっています。
理由としては、各企業の技術力の向上やIT技術の発達により情報を得やすくなったことが原因で、ある会社がせっかく差別化できる機能を生んでも、すぐに他社から類似機能を出されるようになったからです。
その結果、一般消費者はコモディティ化が進むにつれて
という思考になります。
ではそれがどんな影響を及ぼすかというと、多くの家電メーカが陥っているように、商品の価格競争に苦しむことになります。それはこのようなコモディティ化が進んで、値段以外の差別化が難しくなっているからです。だからと言って企業が闇雲に値下げをすれば、得られる利益はどんどん落ちていきます。
こういった負のスパイラルから脱却するために、機能的価値だけでなく「かっこいい」や「知的な感じがする」といった情緒的価値を与える意匠(デザイン性)も重視した商品開発を行う必要があります。デザインを重視することにより情緒的価値を訴えるブランド力が育ち、そのブランド力が強い差別化要素となるからです!
これが商品にとって重視される理由です。
そして、せっかく磨き上げた意匠を模倣されないために意匠権を十分に活用しましょう!
今でこそ「オシャレなデザインの車」というイメージがあるマツダですが、かつては「マツダ地獄」という言葉が生まれるほどの負のイメージもついていました。
「マツダ地獄」とは、マツダ側が大幅な値引き販売をした結果、購入者側からすると売却する際に安い金額でしか下取りしてもらえずにまた安価なマツダ車を乗り継ぐことを繰り返す状況です。
マツダはコモディティ化の波に飲まれて、薄利多売が常態化していました。
ロードスターなどのスポーツカーは人気がありましたが、セダンなどは苦戦していたようです。もちろんロータリーエンジンなどの優れた技術はあったのですが、多くの消費者に欲しいと思わせる程の他社との差別化には苦戦していたようです。
マツダはそんな負のイメージを払拭すべく、2009年に当時のデザイン本部長であった前田育男氏が中心となりデザインによるブランド価値強化をはかりました。
魂を感じる動きを創造するという意味を持ったデザインテーマ「魂動」を打ち出し、デザイナーと開発者が一丸となって「走る姿が最も美しい」フォルムを突き詰めたのです。
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結果としては皆さんのご存知の通り、かっこいいデザインのマツダ車が世に出ています。
2015年にはRX-VISIONという車種がランスで最も美しいコンセプトカーに選出され、2016年にはロードスターが日本車としては初めて「ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、ブランド力向上を実現させました。
このように商品のデザインは企業価値を向上させるために重要であり、そのデザインを保護するために意匠権を活用することが必要というわけです!
商品にとって意匠は重要であり、意匠権を活用して模倣から保護する意義をお伝えしました。とはいえ実際に意匠権を出願する際に、
「他社はこんな形で真似してきそう」と想定される多種多様なデザインまで出願しなければいけないの?
と、手間の多さを心配されるかと思います。しかし、「関連意匠制度」を活用すれば、想定される類似意匠全てを出願する必要はありません。
「関連意匠制度」とは、出願する意匠を本意匠とすると、本意匠と類似する意匠群を関連意匠として登録すれば、その関連意匠も本意匠と同様の効力を持たせることができる制度です。また、本意匠が何らかの理由で消滅しても関連意匠は消滅しません。
では、どのような意匠が関連意匠として認められるかというと、
本意匠と比較して
などが対象になります。
この例から、類似する意匠が登録候補として多く挙がりますが、関連意匠として認められるかどうかの見極めには高い専門性が必要です。なので、実務では出願者が弁理士さんと相談しながら出願する意匠を検討します。
関連意匠の事例は特許庁がこちらにまとめていますので、ご参照ください。
ちなみに、関連意匠は本意匠の出願から10年以内であれば登録可能であり、存続期間は本意匠の出願日から25年です。
また、範囲の考え方として、部分意匠・組物意匠という考え方があります。
部分意匠や組物意匠の考え方を元に、何の意匠を保護したいのか明確にして出願しましょう。
部分意匠とは、物品の一部にも独立した意匠権を認めるものです。その効力は、同一もしくは類似の意匠を含む全体に及びます。特徴的な意匠があるのなら部分意匠で保護しましょう。
組物意匠とは、2個以上の独立した物品を1つの意匠として認めるものです。セットとして意匠権が及ぶものであって、単独では意匠権の効力は及ばないので注意してください。
ではこれまでの話を踏まえて、皆さんが実際に意匠権を出願してから登録するまでの流れと特徴についてご説明いたします。
意匠権を出願して審査が実施され、登録されるまでの流れが下図になります。
主な特徴は、特許権と比較すると出願書類も少なく、審査請求もないため出願から登録までスムーズに進むことです。2020年度の特許庁の調べによると、権利化までの平均期間は特許権が15ヶ月に対し意匠権は7.1ヶ月です。
ちなみに先ほど述べたように、普段描く図面とは別に作図方法が定められた意匠権出願用の図面が必要なので、商品開発用とは別に並行して準備しましょう。
詳細は特許庁の意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引きをご参考ください。
意匠権の実体審査に適合するための要件を説明します。
要件を以下に示しますので、出願する前にこれらの要件を満たしているか確認しましょう。
では、幾つかの項目をピックアップして詳しく説明します。
農業や商業上の利用可能性は含まれず、工業的に同じものを繰り返し量産できるものである必要があります。
工業的なものであれば、建物の外観や内装、クラウド上に保存されている画像など物品に記録・表示されていない画像も含まれます。(令和元年に意匠法が改正されました。事例などはこちらをご参照ください。)
新規性とは、「公然と知られていないこと・刊行物やインターネットで公衆が利用可能でないこと」と定義されます。
もし、出願せずに商品を公表してしまった場合、世間的に新規性が失われて要件を満たせなくなりますが、公表して1年以内ならば「新規性喪失の例外規定」を活用して出願することができます。
しかし、これはあくまで例外的な規定です。原則は公表前に出願する必要があるので注意してください。
なお、意匠権も特許権と同様に先願主義であり、早く出願した者に権利が与えられます。
やや抽象的な表現ですが、「公知の形状等から容易に創作できたものではないこと」と定義されています。
例えば、既存製品のデザインの寸法違いや色違い、単なる組み合わせなどでは無いことが、非容易であると判断されます。
特許権や実用新案権との棲み分けを意味しています。つまり、意匠権は視覚を通じて美感を起こさせる意匠(デザイン)を守る権利ですので、便利な機能以外の価値が要件になるということです。
最後に、秘密意匠制度について説明します。
通常であれば意匠権は登録された後に意匠公報で世に情報が広まります。
しかし、秘密意匠制度を用いれば、登録した意匠を設定登録された日から3年間を限度とした任意期間で秘密にすることができます。
秘密意匠制度の活用方法は、対象の商品発表時期よりも前に意匠権が登録された場合に用いるケースが多いです。なぜかというと、新商品発表前にそのデザインの情報が漏れるのを防ぎたいからです。
発表前にデザインの情報が世に漏れると、発表の場での大々的なプロモーションの効果が薄れたり、競合他社からいち早く対策を取られたり等の問題があります。
なお、この制度を活用できるのは出願時と査定終了時の2回しかチャンスがないのでご注意ください。
今回は、開発者が知っておくべき意匠権の基本をご紹介しました。
本記事で書ききれなかった要件や出願方法の詳細は特許庁の公式HPをご参照ください。
いかがでしたでしょうか。日々の開発活動のヒントになれば幸いです。
読んでいただきありがとうございました。
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