材料力学では、物理学のように方程式をよく扱います。
方程式を解くとは、方程式の中で、「値がわかっていないもの」の解を求めることを言います。
この「値がわかっていないもの」のことを「未知数」と言います。
この方程式を解く上での大原則として、
「未知数の数」≦「方程式の数」である必要があります。
高校物理の力学の範囲において、未知数を求めるには
釣り合いの式を立てて、
方程式を解いて、
答えを求める。
という流れが一般的です。
しかし、材料力学の場合、釣り合いの式だけでは、独立した方程式の数が足りず、方程式を解くことができない問題があります。
ここで前者を静定問題、後者を不静定問題と言います。
このような問題を解く上でも、応力やひずみの式を使うことで解決できることがあります。
その解き方について、今回はお話しします。
具体的に不静定問題とは、どんなもの?
不静定問題は今までとどこが違うのか?
それは
「仮想的に切り離して、釣り合いの式から内力を計算する」という流れが使えない。
ということです。
これは例題を見ていただいた方が早いので、例題を使って説明をいたします。
長さがLの棒の両端が壁に固定されています。
この棒の左端からL1だけ離れた位置に、右向きの荷重Pを与えとき、材料内部に発生する応力を求めてください。ここで、材料のヤング率はE、材料の断面積をAとします。

ではいつものように、釣り合いの式を考えてみましょう。
材料が受けている外力は何かというと、
- 荷重P
- 左の壁から受けている反力
- 右の壁から受けている反力
の合計3種類です。ここで、左の壁から受ける反力をR1、右の壁から受ける反力をR2とします。

釣り合いの式を立てると、以下のとおりです。
$$\begin{align}
-R_1+P+R_2=0 \cdots(1)
\end{align}$$
R1とR2は未知数ですが、釣り合いの式はこれしかありません。
これでは、材料を仮想的に切り離したとしても、内力を求めることができないので、当然応力も求めることができません。
では、どうしたらよいのでしょうか?
式が足りない時は、材料全体の変形について考える
結論から言うと、「材料の変形の条件を加える」です。
棒に外力が加わっているにも関わらず、棒の両端は固定されていいます。
このように材料が固定されていることを「拘束」と言ったりもします。
棒の両端が拘束されているので、材料全体の伸びが0です。
これを利用します。
棒全体の伸びをΔL、荷重Pの位置より左側の部分の伸びをΔL1、荷重Pの位置より右側の部分の伸びをΔL2とします。
すると、以下の関係式が成り立ちます。
$$\begin{align}
\Delta L=\Delta L_1+\Delta L_2 = 0
\end{align}$$
ここから、垂直ひずみの定義式、フックの法則・垂直応力の定義式を使って、式を変換していきます。
$$\begin{align}
\Delta L_1+\Delta L_2 &= 0\\
\varepsilon_1 L_1+\varepsilon_2 L_2 &= 0 \\
\frac{\sigma_1}{E}L_1+\frac{\sigma_2}{E}L_2 &= 0\\
\frac{F_1}{AE}L_1+\frac{F_2}{AE}L_2 &= 0\\
F_1L_1+F_2L_2&=0\cdots(2)
\end{align}$$
εはひずみ、σは応力、Fは内力を表しています。
なお、添字の1は荷重Pの位置より左側について、添字の2は荷重Pの位置より右側を表しております。

ここまで来たら、材料を仮想的に切り離して、内力を表してみましょう。
荷重Pの位置より左側で仮想的に切り離すと
$$\begin{align}
R_1-F_1&=0\\
F_1&=R_1
\end{align}$$

$$\begin{align}
R_2-F_2&=0\\
F_2&=R_2
\end{align}$$

これらの式を(2)式に代入すると、
$$\begin{align}
F_1L_1+F_2L_2&=0\\
R_1L_1+R_2L_2&=0\cdots(3)
\end{align}$$
これで、未知数が2つ(R1とR2)に対して、式が2つ((1)式と(3)式)となり、方程式を解くことができます。
$$\begin{cases}
\begin{align}
-R_1+P+R_2&=0\cdots(1)\\
R_1L_1+R_2L_2&=0\cdots(3)
\end{align}
\end{cases}$$
これを解くと、次のようになります。
$$\begin{align}
R_1=\frac{L_2}{L}P&=F_1\\
R_2=-\frac{L_1}{L}P&=F_2
\end{align}$$
よって、応力は次のようになります。
$$\begin{align}
\sigma_1=\frac{F_1}{A}&=\frac{L_2}{LA}P\\
\sigma_2=\frac{F_2}{A}&=-\frac{L_1}{LA}P
\end{align}$$
学生の頃の私が犯した、勘違い
私はこの不静定問題が苦手でした。
それは、材料に発生する現象について、誤ったイメージを持っていたからです。
私が犯した勘違いは、以下の通りです。
棒の両端が拘束されているから、棒全体は変形できない。よってひずみε=0。
フックの法則より、
$$\begin{align}
\sigma&=E\cdot \varepsilon \\
&=E\cdot 0\\
&=0
\end{align}$$
よって応力は0 N/mm2
これは明らかな間違いです。
確かに棒の両端が拘束されていることで、棒全体は変形できませんが、
先ほどの例のように、区間ごとで変形や応力が生じます。
不静定問題の見分け方
静定問題と不静定問題の見分け方にはコツがあります。
不静定問題としてあげられるものは、
「材料を固定している箇所が多いもの」
「材料が並列で並んでいるもの」
が多いです。
具体例をあげると、


などが代表的ですね。
なので、このような問題に当たった際は「あっ!」と気づけるようになると良いですね。
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