
ノルトロックワッシャーを使おうか考えているけれど、材質とかを見ると、見たことがないものばかりで、どれを使ったらいいかわからない。
ノルトロックワッシャーを選ぶ時って、どういったことを考えないといけないか教えて欲しい。
このような疑問、悩みについてお答えしてきます。
私は普段、機械メーカーで設計の仕事をしているのですが、機械に関するトラブルで多いのが、ねじの緩みです。
ねじが緩むと機械が壊れたり、ねじが破断しやすくなったりして、大きな問題へと発展しかねません。
そのねじの緩み対策として便利なのがノルトロックワッシャーです。
ノルトロックワッシャーは、2枚1組で使用する特殊なワッシャーで、緩み止め用のワッシャーとして高い効力を発揮します。
ただし、ノルトロック社は元々はスウェーデンの会社であるため、ヨーロッパの規格を元に材質などをが表記されております。
そのため、いざノルトロックワッシャーを選ぼうとしても、材質の日本では見慣れない表記が多く、戸惑うことがあると思います。
そこで今回は、ノルトロックワッシャーの材質の読み方について、お話ししてきます。
ノルトロックワッシャーの材質の選び方
ノルトロックワッシャーは、ボルト・ナットや母材へ適切に食い込むことで、高い緩み止め効果を白旗することができます。
そのためノルトロックワッシャーを選ぶには、硬度の関係について以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 相手材がノルトロックワッシャーよりも柔らかい材質であること
- 相手材がノルトロックワッシャーに比べて柔らかすぎない材質であること
一見すると矛盾しておりますが、例えば前者の条件で考えるとガラスなどがNGとなりますし、後者の条件で考えると木材やナイロンなどがNGとなります。
また、防錆の性能についても注目をしておく必要があります。
海水中での使用や、高音な場所での使用においては、金属の腐食等が発生しますので、そういった環境での使用を検討される場合は要注意です。
基本的に、防錆性能が高い材質ほど、値段が高くなっていきます。
ノルトロックワッシャーの材質を見てみると、次のようになっております。
- SC材:Bo04(EN1.7182)
- ステンレス材:EN1.4404
- 特殊ステンレス材(1):254SMO(EN1.4547または相当品)
- 特殊ステンレス材(2):Inconel718(EN2.4667・EN 2.4668または相当品)
- 特殊ステンレス材(3):Inconel/HastelloyC-276(EN 2.4819または相当品)
材質の名称が「EN」から始まっているのは、EN規格での材質の呼び方であることを表しております。
EN規格とは、EU加盟国における統一規格です。EU加盟国はこのEN規格と相反するような規格が自国内に存在しないよう、自国の規格を調整する義務があります。
日本でいうJIS(日本工業規格)に相当するものです。
ENで表記されたとしても、JISを使用することがほとんどである私たちにとっては何のことだかさっぱりわかりません。
しかし、EUと日本とでは使用している規格が異なるため、例えばS25Cと厳密に同じである材料がEN規格では存在しない場合があります。
そのため、「JISでいうxxという材料に近いもの」というおおよその目安の意味で「xx相当」というような表記がされることが多いです。
SC材のノルトロックワッシャー
ノルトロックワッシャーの中でスタンダードなものがSC材が使われているものです。
SC材というのは日本における材質の通称で、鉄鋼材料の中でも炭素の含有量が0.6%以下の材質のことを言います。最も有名なのはS45C(炭素の含有量が0.42〜0.48%)で、安価で流通量が多く、ボルトやナットに使用されています。
ノルトロックワッシャーに使用されている材質は、S25C(炭素の含有量0.20〜0.30%)相当であると思われます。
ただし、SC材はボルト・ナットにもよく使われています。両者ともSC材の場合、材料の硬度がほとんど一緒であるため、ノルトロックワッシャーがボルトにうまく食い込まない場合があります。
そこで、SC材のノルトロックワッシャーは熱処理の上、「デルタプロテクト」という処理が施されております。
デルタプロテクトとは、ドイツで誕生した処理技術で、以下のような特徴を有します。
- 硬度はHRC47以上(465HV1)
- 防錆に優れる
- 環境に優しい
- 水素脆性(遅れ破壊)の危険性なし
硬度の向上だけではなく、防錆の効果も発揮します。
硬度の値は、表記方法が数種類ありますが、HRCはロックウェルCスケール硬さの数値、HVはビッカース硬さの数値で、HV1は1kgfの力で材料に押し付けた時の硬さの数値という意味になります。
ちなみに材料のおおよその硬度ですが(わかりやすいように硬さの数値はロックウェルCスケールに変換しています)、
SS400は測定でるかできないかぐらい柔らかく、S45CでHRC4〜20程度、SCM435でHRC28〜35となります。
そのため、一般的な金属材料を使う場合は、特に気にせずノルトロックワッシャーを使用することができます。
ただし、熱処理などで硬度をあげていたり、耐摩耗性を向上させている場合は、その条件によって硬度が異なりますので注意が必要です。
ステンレス材のノルトロックワッシャー
ステンレス材(EN1.4404)のノルトロックワッシャーは、JIS規格でいうSUS316L相当です。
ステンレス鋼の中で最も普及しているのはSUS304ですが、このSUS304よりもさらに防錆性能が高いのがSUS316です。このSUS316の中でも、炭素成分の含有量を低くし(Low Carbon)、材料の腐食が発生・進行するのを抑えたものをSUS316Lと言います。
ステンレスは日本語に訳すと「錆びない」という意味になりますが、海水中などで条件が揃えば錆びてしまいます。
母材やボルト・ナットにステンレス材を使用している場合は、「電食」を防ぐため、このステンレス材のノルトロックワッシャーを使用するのが良いでしょう。
「電食」は材料の腐食現象の一種です。イオン化傾向が大きく違う者同士が接触し、そこに雨水などの水分が存在すると、電池の回路が形成され、材料が腐食します。そのため、接触する金属同士は、イオン化傾向が同程度(または材料の成分が近しいもの同士)が好ましいです。
SUS316Lは、海水中でも高い防錆を発揮します。ただし、若干高価になります。
硬度については、このノルトロックワッシャーがHRC51であるのに対して、
SUS304・SUS316でHRC10程度です。
このことから、このノルトロックワッシャーも硬度を向上させr処理がされていると思われます。
特殊ステンレス材のノルトロックワッシャー
特殊ステンレス材のノルトロックワッシャーは、より腐食しやすい環境での使用を想定して製造されております。
金属が塩素による腐食を最も受けやすいのは、「海水の中」よりも「波打ち際」です。波打ち際は、海水がかかったり、かからなかったりします。そのため「海水がかかる」→「水分が乾いて塩分濃度が上がる」となります。
特殊ステンレス材のノルトロックワッシャーは3種類ありますが、海水のかかる環境だけではなく、高温環境(数百度など)や低温環境、酸性溶液がかかる場所でも使用することができます。
そのため、ガスタービンやボイラー、プラント設備、原子力、医療機器などに使われる部品の固定にも使用することができます。
ある程度想像している人もいるかと思いますが、めちゃくちゃ高価です。
また、かなり特殊であるせいか、InconelやHastelloyのノルトロックワッシャーは、リンクが見つかりませんでした。
3種類の使い分けは、それぞれ適用できる範囲などが異なりますので、詳しくは販売元のカタログをご覧いただくか、メーカーに問い合わせると良いでしょう。
まとめ
今回のポイントをまとめると、以下のとおりとなります。
- ノルトロックワッシャーの選定で見るべきポイントは、材質と硬度
- ノルトロックワッシャーの材質は、母材やボルト・ナットとの材質の相性、使用される環境などを考慮すると良い
- 硬度については、熱処理をしていない材料に対しては基本的に使用できると考えても良い
- 熱処理をしている材料にノルトロックワッシャーを使用する際は、硬度の値を確認しておくと良い
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