部品を固定する方法の中で、ボルトは最も多用される機械要素です。
部品をボルトで固定する際は、座面と、母材接触面が平行であるのが基本となります。
逆に、「座面」と「母材同士の接触面」とが平行ではない(固定箇所が斜めになっている)場合や、「座面」または「母材同士の接触面」が曲面(固定箇所が曲面になっている)場合は、様々な不具合の原因になることもあり、好ましくありません。
その理由や、その対策方法について、今回はお話しします。
目次
固定箇所が斜めになっていると、以下の2つの不具合が発生します。
その理由を説明するために、固定箇所の力の関係について考えてみましょう。
ボルトを締め付けた時に発生する軸力をF、母材接触面の滑り摩擦係数をμとします。
座面と母材接触面とが平行でかつ平面の場合、母材接触面に働く最大静止摩擦力fは以下のとおりとなります。
一方、ボルトの固定箇所がθだけ斜めになっていたとすると、力の関係は以下のようになります。
先ほどの最大静止摩擦力に、cosθを掛けた数値となります。
しかし、cosθの値は、-1≦cosθ≦1の範囲でしか値を取らないので、固定箇所が斜めになっている場合、斜めになっていない場合に比べて、最大静止摩擦力が必ず小さくなります。
さらに、母材接触面を滑らせる方向に、μFsinθの力が常時発生します。
「たとえ母材接触面が滑ったとしても、ボルトに引っかかるから大丈夫」と思うかもしれませんが、
ボルトは、軸と垂直な方向の力には弱いため、ネジが曲がったり、ちょん切れたりしまする可能性があります。
固定箇所が局面になっている場合、以下の3つの面で不都合が生じます。
例えば、以下の図のように固定箇所が曲面になっている場合、曲面になっていない場合と比べて、ボルトの頭と母材との接触面積が小さくなります。
ボルトの軸力が両者とも同じであるとすると、曲面の方は接触面積が小さくなるため、応力が大きくなり、母材が陥没しやすくなります。
母材が陥没すると、ボルトが緩む原因となります。
また、曲面に対するドリル加工の観点でも好ましくありません。
ドリルの狙いが曲面の中心にしっかり向かっていないと、加工面が曲面であるため、ドリルが斜めになります。
最悪の場合は、この時にドリルが折れます。
穴が指示されたとおりの向きにあいていなかったり、ドリルが折れた時に破片が部品を傷つけてしまった場合は、一から作り直しとなるため、このような部品は、製作コストが跳ね上がります。
固定箇所が斜めや曲面になっていることは好ましくないとは言いつつも、どうしても角度をつける必要がある時は稀にあります。
そのような時の対策として、「座面だけ、接触面と平行になるよう加工する」という方法があります。
斜めの部品の方では、一見、部品の形状が複雑にはなりますが、ボルトを締め付けた時に、最大静止摩擦力を十分に発揮させることができます。
ボルトの頭の部分が邪魔になる場合は、座ぐり加工などをすると良いでしょう。
また曲面の場合は、穴あけ加工が圧倒的にラクになります。
円柱状の部品の曲面部にボルトで固定する時に行う、典型的な加工例となります。
ボルトの座面が斜めになってしまった場合の対策にはなってしまいますが、球面座金と呼ばれる部品を使用することによって、母材と座面との角度を吸収することができます。
使い方やその注意点について、以下の記事でまとめておりますので、使用を検討している人は一度読んでおくことをおすすめします。
ボルトの固定箇所が斜めになっていたり、曲面になっていることは基本的に好ましくありませんが、以下の場合はあまり問題にはなりません。
要するに、不都合の影響が問題にならないほど小さければ、完全にNGというわけではないのです。
普段から部品の加工を仕事にしている業者さんなどは、このあたりの知識をよく知っています。
しかし、どんなに加工上好ましくないような部品の形状で図面が描かれていたとしても、加工業者さんが勝手に部品の形状を変更することはできません。
そのため、部品を設計する人が、加工の知識も知っておく必要があります。
ここで述べるのは程度問題となってしまいますが、この辺は図面を描く段階で、加工業者さんなどと相談しながら進めていくのが良いかと思います。
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