製造業に就職したばっかりなんだけれど、上司とかがたまに「インロー、インロー」って言ってるのが意味わからない。詳しく教えてほしい。
このような疑問・悩みを持った人へ、お答えしていきます。
私は普段機械設計の仕事をしており、現在5年目です。
私は機械系の学科を卒業してはおりましたが、あくまで「研究」が主体の勉強ばかりをしていたため、「設計」や「ものづくり」としての勉強は入社後に身に着けました。
設計の知識を勉強し始めた新入社員の頃のある日、会社の上司が図面を見ながら「インローがxx」というように、「インロー」という気になる言葉を連呼していました。
最初は何のことだかさっぱりわからず、ネットで調べてもうまく解説しているところがありませんでした。
このように、私のような疑問を持っている人に、今回は「インロー」について解説をしていきたいと思います。
「インロー」は上手く使えるようになると便利な構造ですので、今回の記事を参考に設計へ役立てていただけると幸いです。
インローとは、「2つの部品がはまり合う部分において、一方が凹形、もう一方が凸形であるような入れ子構造」のことを言います。
「インロー形状」とか「インロー構造」と呼ばれることもあります。
組立誤差があまり許容できないような部品を位置合わせ、組立てするのによく使われます。
身近な例でいうと、ちょっと高級な箱やお弁当箱に使われています。
これらは、箱の本体側と、フタ側とがガタつくことなく「シュコ」っと上手くはまり込むようにするために、本体側に段を設けています(フタが上手くはまり込む感じが、なんだか気持ちいいですよね)。
機械系の製造業の業界でも、プレス機の金型で使われることはもちろん、機械加工で作られる部品・装置を設計する際にも使われたりします。
余談ですが、「インロー」という言葉は、水戸黄門の「印籠(いんろう)」から来ていると言われており、本体側とフタ側とに分離ができ、それらがはまり込む部分は段がついていますので「シュコ」っとはめ込むことができます。
インローを採用することで組立誤差があまり許容できないような部品を位置合わせ・組立てすることができます。
「組み立てる時に手で合わせればいいんじゃないの?」と思う人もいるかも知れませんが、機械部品ではその程度の位置合わせでは話にならないようなところに使われたりします。
どれぐらいの精度で位置合わせが必要なのかというのは一概には言えませんが、機械部品で言うとおおよそ「±0.01mmオーダ」です。
この程度の誤差しか無いため、組み立てる時に微妙にズレたり、ガタついたりすることもなく、ほぼ設計時の想定どおりに部品を組み立てることができます。
さらに、組み立てた部品を一度分解し、再度組み立てても、分解前の状況とほぼ同じように組み立てる事ができます(再現性が高いです)。
インローを使わない場合は、ボルトのバカ穴分だけズレますので「±0.1mmオーダ」で組立誤差が発生します。
「±0.1mmも、±0.01mmもほとんど変わんないんじゃないの?」と思う人がいるかも知れませんが、±0.1mmだと問題になるケースもあるのです。
ここで、高い位置決め精度が必要である例として、歯車を使った装置を挙げて解説いたします。
歯車同士の噛み合いは、軸心同士の据付距離のズレの程度によって、その品質が左右されます。
軸心同士の据付距離が大きくズレていると「トルクの伝達効率の低下」だけではなく「歯の摩耗」「異音」「振動」など、機械にとって悪影響が出てしまします。
そのため、インローを採用することで、組み立てた機械の個体による品質のばらつきを大きく低減させているのです。
インローは、大きな荷重に耐えられるようにする目的でも使用されます。
例えば台車を設計するとして、その車輪と軸の構造を考えてみましょう。
台車の足回りについて、車輪は軸心に対して垂直方向に地面からの反力を受けます。
まず、インローを使用せずに車輪と軸とをボルト締結だけで接合すると、車輪とシャフトとの間に軸心に対して垂直方向の滑りが生じた場合に、ボルトに対してせん断力がかかってしまいます。
基本的にボルトはせん断力に弱いので、最悪の場合、ボルトが折れて車輪が吹っ飛んでしまいます。
車輪とシャフトとの間の摩擦力が十分に効いているうちはいいのですが、路面の凹凸などのことを考えると、絶対に滑らないとは考えにくいです。
一方で、インローを採用した上でボルト締結をした場合では、軸心に対して垂直方向の荷重はインローの部分が受け持ってくれるので、ボルトへの荷重負荷を大幅にへらすことができます。
成型品は、金型の固定側入れ子と可動側入れ子との間に樹脂などを流し込んで製作していきますが、この金型同士がはめ合う部分にもインローが使われます。
金型の間に樹脂を流し込んでいく際に、金型は樹脂から圧力を受けるため、金型のはめ合わせがズレる場合があるのです。
例えばこれが成型品の肉厚が薄い場合、金型の少しのズレが偏肉となり、NG品となりやすいのです。
そのため、金型をインローにすることによって、樹脂の圧力による金型のズレを防止することができるのです。
インローは凸型の部品の先端を若干テーパにしておくことがコツです。
テーパとは、細長い部品において、先端側が細くなるようになっている構造のことを言います。また、先端側が細くなるように加工することを「テーパをつける」とか「テーパをかける」などと言ったりします。
というのも、インローははめ込んだときの遊びがそもそも非常に小さいので、凸側と凹側とをはめ込む入り口の部分を合わせるのが難しいのです。
数°程度の目安で凸側の先端にテーパをつけてあげるだけで、はめ込みが非常にラクになります。
また、場合によっては凹型にもテーパをつけることもあります。
インローを採用すると組み立てるのも大変になりますが、逆に分解をするときも大変です。
隙間ばめになっていれば簡単に分解できますが、中間ばめでははめあい部に対して真っ直ぐ抜かないと分解できませんし、さらに締まりばめになっていたりなんかすると手ではまず分解できません。
そこでインローを簡単に抜けるようにするために「抜きタップ」を設けておくのがコツです。
抜きタップは、インローのようにはめ合わされた部品同士を分解する時に使う、タップ穴のことです。
分解する時にこのタップにボルトをねじ込んでいくと、ボルトの先端が底づきした時に、ボルトがジャッキとして機能してくれるようになります。
たとえ小さなボルトでも、ねじの押付力は人間の力の比にならないぐらい大きいので、簡単にインローを分解することができます。
今回のポイントについてまとめると、以下の通りとなります。
ただ、いざインローを使おうとするときには、いくつか注意するべきところがあります。
以下の記事にまとめておりますので、ご参考にしてみてください。
今回は以上になります。ご一読ありがとうございました。
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