
ステンレスの部品やねじを使ってたら、ねじがビクともしなくなった。何でかじり付いちゃったのかな。ステンレスって錆びないから便利だと思ったのに・・・
このような疑問・悩みを持った人へ、お答えしていきます。
私は機械設計の仕事を普段しており、主に産業機械の設計を中心に行っております。
産業機械は金属部品を多用しますが、特に鉄系の材料について多いトラブルが「錆び」です。
鉄系の材料は、ねじにももちろん使われておりますが、ねじが錆びてしまうと「材料の腐食が進行する」「ねじの締め付け・取り外しが困難になる」といった不具合が生じます。
そこで、「そもそも錆びない材料」としてよく使われるのが、ステンレスです。
ステンレスは機械の部品やねじに使われているだけではなく、皆さんのご家庭の包丁や、水回りの用品などにもたくさん使われております。
しかし、ステンレス製のねじは錆にくいというメリットが有るものの、デメリットとして「ねじが、かじりやすい」という厄介な特性も持っています。
「かじり」とは、ねじを挿入していくときに、ねじ部が固着し、全く動かなくなってしまう現象のことを言います。ねじがかじってしまうと、そこから締め込もうにも、緩めようにも、ビクともしなくなってしまいます。別の呼ばれ方として、「焼付き」とも言ったりします。
ねじがかじってしまうと、最悪の場合は部品ごと作り直しという事態にまでなってしまいます。
このような不具合を起こさないためにも、「かじり」はどのようにして起こるのか、どうしたら「かじり」を起こさずにできるかといったことを、お話していきます。
「かじり」のメカニズム
ねじが「かじり」には、いくつかのメカニズムがあります。
実は複数あるねじの固着のメカニズムを総称したものが「かじり」と呼ばれる現象です。
厳密な話をすると、「トライボロジー」というかなり難しい分野の話になってしまうのですが、ざっくり言えば以下の2つです。
- 雄ねじと雌ねじとが、瞬間的に融解・凝固することによって固まる
- 雄ねじと雌ねじとが物理的に干渉し、クサビのように食い込んでいる
ねじの「かじり」の原因
ねじがかじる原因は「材料そのものの特性」からくるものと、「外的要因」のものの2種類があります。
材料そのものの特性
材料の中でもステンレスなどのように、そもそも「かじり」が発生しやすい材料があります。
ステンレスを例として、かじりに影響する物性と、それによるかじりの発生メカニズムをまとめると次の通りとなります。
- 熱膨張率が、鉄鋼材料の約2倍
→おねじとめねじとが密着しやすい - 摩擦係数が、鉄鋼材料の約2倍
→摩擦熱が発生しやすい - 熱伝導率が、鉄鋼材料の約1/3倍
→発生した熱が逃げにくく、局所的に温度上昇しやすい
摩擦熱は局所的に材料の温度を急上昇させますが、それが瞬間的にステンレスを溶かすほどにまでになってしまうのです。
ステンレス以外でも侮れない
ステンレスの場合は常温でもかじりが発生してしまいますが、ステンレス以外でも条件が揃えばかじりが発生するので注意が必要です。
かじりは「材料の溶着」が原因であることから、特に高温環境での作業では、ステンレス以外でもかじりが発生します。
例えば、以下のようなケースでは注意が必要です。
- 真夏の直射日光があたるような場所での作業
- 暖房器具の近くでの作業
- 近くで溶接作業をしている場所 etc
外的要因
これは、ステンレスでなくとも、かじりが発生しやすい要因です。
摩擦熱が発生するような状況というのは、「雄ねじと雌ねじとの密着」以外にも、加工や組立による要因がいくつかあります。
いくつか例を挙げると、以下のとおりです。
- 切粉やゴミ、異物がねじ部に入っている
- ねじ部の加工品質が悪い(ねじ山にバリがある、むしれているなど)
- ねじの表面粗さが粗い
- ねじ部に打痕や欠けがある
- 組立てのときに、タップと下穴との位置が合っていないまま、無理やりねじを締め込む
特に、組み立て現場にてタップ加工をする際は、上記のようなかじりを防止するために、加工後にねじ部を清掃する必要があります。
また、ねじ山に負荷がかかるようなこと(ものや工具などを落とす)をすると、ねじの形状が歪んだり、欠けたりするので、かじる可能性が高くなります。
ねじがかじらないための予防策
ねじがかじらないようにするための方法に、以下のものが挙げれます。
- ねじが入りにくいと感じたら、一旦ねじを抜く(※超重要)
- なるべく電動工具を使わない
- 勢いをつけずに、慎重にねじを締める
- ねじを締める前に、バリやむしれがないかをチェックする
- ねじ部を十分に掃除する
- 潤滑剤を塗布してから、ねじを挿入する
- かじり防止の表面処理をした特殊ねじを使用する
- ねじを締めすぎないよう、トルク管理をする
中でも「ねじが入りにくいと感じたら、一旦ねじを抜く」というのはめちゃくちゃ重要です。
かじる手前で締め込みを中止すれば、被害を0にすることができます。
まとめ
今回の内容についてまとめると、以下の通りとなります。
- 材料の中には、そもそもかじりやすい特性をもつものがある
- 一般的な鉄系のねじでも、高温環境であればかじる可能性がある
- 異物のかみこみや、ねじの加工不良もかじる原因となる
- タップと下穴との位置をちゃんと合わせてからねじを締めよう
なお、ステンレスはいくら気をつけたとしても、かじってしまう場合が多いです。
なので、ステンレスの場合は、「二硫化モリブデングリース」という潤滑剤がほぼ必須ですので、施工の際は準備しておきましょう。
また、最悪かじってしまった場合の対処法については、以下の記事で解説しておりますので、ご参考にしてください。