【機械設計】安全率の考え方・目安について

設計 更新:

この記事を読むべき人

  • 設計計算のときに、安全率がいくつならよいかわからない人
  • 安全率の数字の考え方について学びたい人

こんにちはー、りびぃです。私はかれこれ約10年、機械設計の仕事をしています。

そんな中、よく設計現場の議論として上がるのが

安全率っていくつに設定するのがいいの・・・?

です。

安全率とは特に強度設計をする際に頻繁に使用される値で、「想定される応力に対してどれだけ許容応力に余裕があるか」を示した指標です。

$$S=\frac{\sigma_a}{\sigma}$$

$S$:安全率
$\sigma_c$:基準強度
$\sigma_a$:許容応力(使用応力)

実際の設計現場では、基準強度を「降伏応力」、許容応力を「想定最大応力」に置き換えてSを計算し、その結果が設計現場で規定されている数値以上であれば問題なしと判断する形で使用されます。

あるいは、想定最大応力に係数をかけることでも表現されることがあります。

$$\sigma_a= k\sigma_a’$$

$\sigma_a$:補正後の想定最大応力
$k$:補正係数
$\sigma’$:想定最大応力

購入品の技術カタログとかを見ていると、係数で表現されているものが多い印象ですね。

安全率が1を下回ると部品が壊れることを意味しますので、どんなに低くとも安全率は1以上を設定します。

1以上なのはわかったけど、じゃあ1.5ならいいの?それとも2ぐらい必要なの?うちの会社に安全率の規則なんて無いんだけど・・・

と気になるところですが、

業界によっては数字が定めれられていたりしますが、少なくとも生産設備の分野では、安全率は自分たちで決めるしか方法がないんですよ・・・

とはいっても、

テキトーに安全率設定して、もし壊れたやべぇやん・・・。決め方がわからなかったら強度計算できないよ・・・

というのもおっしゃるとおりです。

そこで今回は、安全率のそもそもの考え方や、よくある安全率の目安について解説をしていきたいと思います。

安全率ってなんで必要なの?

そもそもなぜ安全率が必要なのかというと「不確定要素によって想定以上の応力がかかる(あるいは材料の強度が下がる)ことが起こっても、部品が壊れないようにするため」です。

部品が壊れてそれによる損害を被るリスクを抱えるのであれば、安全率という保険をかけておこうという発送です。

不確定要素の種類はたくさんあるのですが、具体的にどんなものかについて、いくつか例を説明していきます。

実際の荷重が予測できないから

たとえいくら正確に強度計算をやったとしても、実際に発生する荷重の大きさや荷重のかかり方と完全に一致させることは不可能です。

どういった要因でズレが出るかというと、

  • 加工誤差による重量のズレ
  • 組立誤差による重心のズレ
  • 摺動部・ガイド部の摩擦力
  • 衝撃力のズレ

などなど、いくらでもあります。超高精度な解析ソフトを使ったとしても不可能です。

解析をよく知っている人ほど「解析結果を鵜呑みにしてはいけない」なんて言ってますね!

 

材料の呼び寸法に比べ、実際の寸法が小さくできているから

たとえば、板厚6mmのSUS304に穴をあけたブラケットを設計するとします。

もちろん板厚6mmと書いているのだから、強度計算も6mmで行うのが一般的だと思います。

しかし実はほとんどのケースで、実際の板厚は6mmに達していないのです。

JIS G 3101(冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯)を見てみると、板厚6mmに対して±0.50mmの誤差があったとしても板厚6mmの材料であるとしてもよいことになっています。

公差を認めてあげないと、6mmぴったしで製造することは不可能ですからね

ただ実際、製鉄所の生産設備は性能が高いので、板厚に対して±0.50mmもばらつくことなんてありません。

・・・ということで、実をいうと製鉄所は「できるだけ許容ギリギリに薄く製造することで原材料を節約しよう」ということをしています。

なので、世の中に流通している板厚6mmのSUS304は、ほぼ全て5.95mmに近い板厚です。

もちろんこのような実情は、他の板厚、他の材料でも同様です。

内部応力の存在によって材料強度が変わるから

強度計算をする際、ほぼすべてのケースで内部応力は考慮していないと思います。

しかし例えば板金部品の曲げ部や、製缶部品の熱影響部では、実際には内部応力が発生しています。

製造過程の影響で、その部品に外力をかけていなくても内部的に常に応力が発生してしまっている部分のことを、内部応力って言います。

この内部応力は値のばらつきや応力分布のばらつきが激しいので、高精度に見積もることが難しいです。

よくある安全率の目安

安全率の目安について、最も有名な指標が「アンウィンの安全率」です。

アンウィンの安全率は教科書などにも掲載されているほど有名で、大手企業の中にはこの指標を社内の設計基準として採用している企業さんもいます。

材料 静荷重 繰返し荷重
(片振り)
繰返し荷重
(両振り)
衝撃荷重
軟鋼 3 5 8 12
鋳鉄、もろい金属 4 6 10 15
銅、軽金属 5 6 9 15
木材 7 10 15 20
石材、レンガ 20 30

(JSMEテキストシリーズ 材料力学より)

ただしこのアンウィンの安全率は、一部の設計者の間では「精度が低い」と言われているので使用には注意が必要です。

上記の表を見ての通り、アンウィンの安全率は「ざっくり目の材料別ごと」と「静荷重 or 動荷重」という観点でしか表現されていません。

不確定要素なんてまだまだいっぱいあります。

実際に設計してみるとわかるのですが、このアンウィンの安全率に則って設計をすると、結構ゴツいな・・・と感じることが多いです

 

ちなみに、アンウィンの安全率は引張強さを参照しています。

一般的な延性材料(SS400など)では基準強度に降伏応力を参照することが多いので(引張荷重の場合)、ここのミスには注意してください。

安全率をギリギリまで下げている業界もあるが・・・

実は航空機で採用されている安全率は1.5と、割とギリギリで設定されていると言われています。

安全率を可能な限り下げると、その分材料費が節約できることはもちろん、軽量化によって燃費も良くなります。

これを聞くと、

なぁんだ!じゃあオレも安全率を1.5で設定すりゃいいや!

と思いたくなりますが、それは非常にリスクが高いのでやめたほうがいいです

そもそもなぜ航空機では安全率を下げられているのか?その背景を知った上で、自分の設計に適応できるのかを確認する必要があります。

つまり安全率を下げるための条件の例として

  • 使用する材料データについて、信頼性の高いデータを保有していること(一般的には十分かつ制度の良いな強度試験データを保有していること)
  • 想定される荷重と実際にかかる荷重との差が少ないこと
  • 部品製作後に厳しい検査を実施することで、部品に問題がないことが保証されていること
  • 高頻度に点検・メンテナンスを実施する体制が整っていること

などが必要です。

航空機なんて、フライトが終わる度に整備士によって点検されていたり、定期的にメンテナンス実施していたりしてますよね。

逆にこういった条件条件が達成されていないほど不確定要素を抱えざるを得ないことになるので、安全率を下げるのは危険だと思います。

結局、安全率の設定値はいくつにすりゃいいの?

まず、もし皆さんが勤める会社の設計基準で安全率が定められているのであれば、素直にそれに従うのが良いでしょう。

まずは職場の上司や先輩に確認ですね。

あるいは、建築業界や圧力タンク、自動車業界では比較的データが多く揃っている印象があります。

なので、各業界から発行されている資料などを閲覧し、自身が担当の機械・部位に適用できそうかを調べてみるといいと思います。

ただし、見つけたとしても「どんな前提で何を想定している安全率なのか?」は確認しましょう。

もしそれが難しいとしても、勤め先で設計実績をある程度保有しているのであれば、それらの強度部材(特に荷重がかかりそうな部材)をいくつかピックアップして、実際安全率がどの程度で設計されているのか?そして、その装置は納入後に強度的な不具合が無いかを確認し、目安にするのが良いでしょう。

または、モックアップ等を製作して、可能な限り想定している動作環境に近い条件下で試験をするなども有効です。

できれば材料、荷重(静荷重・動荷重)、加工方法、環境温度、部品検査・組立調整の有無、動作条件(速度・力など)、動作頻度等も含めて記録を残しておくことをおすすめします。

もし社内に設計基準もなく、設計実績も十分にないのであれば、まずはアンウィンの安全率を参照するしかないでしょう。

ただし設計実績がある程度蓄積される度に、定期的に安全率の見直しをするのがよいと思います。


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りびぃ

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機械設計エンジニア: りびぃ

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