【解説】金属材料の基本的な選定方法

材料 更新:

こんにちは、りびぃです。

普段は産業機械を中心に、機械設計の仕事をしております。

設計を始めたばかりの頃、よく悩んでいたのが「材料って何を使ったらいいのか?」ということです。

よく、描いた図面を上司に見せると・・・

  • 「これ、何の材質で作るつもりなん?」
  • 「ホンマにその材質でええの?」

とかなり質問攻めにされました。

リヴィ

よくわからないままテキトーに「鉄です!」って答えると、「なんやそれ、具体的になんの材料なん!?」と怒られてましたね笑

設計をするときにどの材料を選べばよいか悩む人が多いと思いますが、その理由は

  • 「こういう場合は必ずコレじゃないとダメ!」のような絶対的な正解がない
  • 「よく使われる材料」を調べても、業界ごとにバラバラだったりする
  • 設計者によっても、使う材料がバラバラだったりもする

などがあり、とても混乱してしまいます。

ですが、この材料が決まるだけで、

  • 部品の形状・加工方法
  • 加工精度
  • 重量
  • 価格
  • 耐食性・耐摩耗性 などなど

多くの要素がある程度決まってきます。

また、部品の材料は構想設計や基本設計などといった、設計の比較的早い段階で決定される事が多いので、材料の選定をミスると「その部品を最初から検討し直す」ということも往々にしてあります。

そのため、設計者自身が「こういう場合は基本的にコレを選ぶ」という指針を持っているかどうかが、設計能力や設計スピードを決める大きな要素となってきます。

そこで今回は、これまでの私の経験をもとにして、「どのように金属材料を選んでいるかの選定方針」を初心者の方向けにざっくりめに紹介していきたいと思います。

実際のところ、材料の種類は数え切れないほど膨大にありますし、同じ材料でも焼入れ等の熱処理・調質、表面処理等によって性状が全く異なったりもするのですが、

今回は初心者向けということで、細かい話は抜きにして解説していきたいと思います。

汎用なら、鉄系

材料を選ぶ上で特に要件がないのであれば、鉄系を選ぶのが良いです。

理由は、

  • 価格が安いこと
  • 平板・丸棒・形鋼などといったように、材料の形状ラインナップが豊富であること
  • 溶接も可能なので、設計自由度が高い
  • 強度が高めであること

等が挙げられます。

基本は、SS400

この中で、まず基本となるのはSS400です。

金属材料の中では最も一般的ですし、材料データも豊富で強度計算等もしやすかったりします。

ただしSS400は生材のままだと空気中でも簡単に錆びていってしまいますので、腐食対策は必要になります。

安価にできる腐食対策に「黒染め」がありますが、結構すぐ錆びてくるので、あまり信用はできません。

リヴィ

雨が多い日や、湿気がある日なんかはあっという間に錆びますねー

亜鉛メッキ・ニッケルメッキ・クロムメッキなどといったメッキ処理をするか、塗装をするなどをしたほうが良いです。

もっと強度が欲しいなら、炭素鋼

もっと強度が欲しいのであれば、続いて候補になるのは炭素鋼です。

具体的にはS45Cあたりをよく使うようにします。

S45Cは生材のままだとしても、SS400より強度が高く、引張強さが500~600N/mm2程度にまでなります。

さらにS45Cは、熱処理を加えることでより強度を増すことができ、引張強さが700~800 N/mm2程度まで向上させることができます。

もっともっと強度が欲しいなら、クロモリ

それでもまだまだ強度が足りないということであれば、クロムモリブデン鋼(通称:クロモリ)が候補になります。

よく使うのはSCM435あたりです。

生材の時点で引張強さが900〜1000 N/mm2程度、熱処理を加えれば1200 N/mm2程度にまでなります。

リヴィ

ボルトの材質を見ても、4.xぐらいはSS400、5.x〜8.8ぐらいはS45C、9.8~12.9はSCM435といったように、強度によってこのように使い分けがされています。

ただし熱処理をすると、納期・リードタイムが長くなることに注意してください。

理由は、

  • 熱処理そのものに時間がかかること
  • 熱処理屋さんの数が、世の中的に減ってきていること
  • 熱処理によって材料が大きく歪んでしまった場合は、再製作になってしまうこと

などが挙げられます。

リヴィ

在庫品ではない場合、比較的小さな部品だとしても、早くて10日〜2週間ぐらいはかかるというイメージです

耐食性がほしいなら、ステンレス

  • とにかく耐食性が欲しい
  • 錆びるのが嫌
  • 医療・食品関係に使える材料が良い

そんな場合にはステンレス鋼を検討するようにしましょう。

一応ステンレス鋼の主成分は「鉄」なのですが、

設計者の間では「鉄といえば、ステンレス以外の鉄剤」「ステンレス鋼は『ステンレス』『サス』」と呼ばれます。

ステンレス鋼は表面処理や油の塗布などをしなくても、通常の使用において錆びることはほぼありません。

また耐食性が良いこと自体メリットになりますが、表面処理が不要なので納期・リードタイムが短い傾向があるというメリットもあります。

リヴィ

「とにかく急いでいるからステンレス!」というのは、何度かやった経験があります笑

ただし、フェライト系・マルテンサイト系のステンレス(SUS4xx系)は空気中でも錆びることがあります

そのため基本的にオーステナイト系(SUS3xx系)しか私は使いません。

ステンレス鋼について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。

基本は、SUS304・SUS303

ステンレスの中でも基本となるのは、SUS304です。

理由としては、

  • 入手が容易なステンレスの中では、耐食性がとても高い
  • 丸棒・平板など、材料形状のラインナップが豊富
  • 溶接も可能なので、設計自由度が高い
  • 材料データも豊富で強度計算等しやすい

等が挙げられます。

リヴィ

ボルト・ナットにもSUS304はよく使われます。

ただしSUS304は、切削加工がしにくいというデメリットがあります(できないことはないのですが・・・)。

そのため、溶接を使わない・切削加工で部品を作りたい場合は、SUS303を使用するのが良いです。

ちなみに、SUS304の材料の値段はSS材の3倍ぐらいするので、プロジェクトの予算は把握するようにしましょう。

もっと耐食性がほしいなら、SUS316

SUS304は非常に耐食性が高いのですが、海水がジャバジャバかかるほどの厳しい環境においては、条件によっては腐食することがあります。

そのような過酷な環境の場合は、SUS316を使用しましょう。

材料の値段は非常に効果になりますが、SUS304の更に上の耐食性能があります。

また、高温環境への耐性もあることから、熱交換部品等に使われることもあります。

軽さが必要ならアルミを検討しよう

もし軽量化を求めるのであれば、アルミを検討するようにしましょう。

アルミの比重は鉄の約1/3なので、同じ体積なら重量が1/3になります。

樹脂のほうがもっと軽かったりしますが、あちらは加工精度が安定しなかったり、強度が非常に低かったり、熱に弱かったりするので、産業機械のメインの材料としては使いにくいです。

一方でヤング率も約1/3なので、ちょっと力を加えただけで簡単に歪んだり、たわんだりしますし、

強度も低いため、簡単に凹んだり、ねじれたり、壊れたりします。

リヴィ

設計者の多くが一度は通る失敗談です。なかなか理論通りにはいかないものです笑

また耐食性についてですが、アルミは何も処理を施さずに放置していると錆びて白っぽくなります。

リヴィ

このアルミの錆のことを、人によっては「粉をふく」なんて言っていたりしますねー

そのため、基本的には「アルマイト処理」をするようにしましょう。

アルマイト処理は様々な色を指定することができるのですが、特にこだわりがなければ「白」で大丈夫です。

リヴィ

アルミはちょっとものが当たっただけですぐに傷ついたりするので、アルマイトをしても傷のところから錆が発生したりするので、注意が必要です。

基本は、A5052

アルミの中でも基本とするのは、A5052です。

アルミの中では最も一般的な材料の一つで、中程度の強度・耐食性を持っています。

また、溶接性が高く、曲げ加工もできるので、設計の自由度が高いのも大きなメリットです。

リヴィ

ただ溶接性が良いとはいいつつも、鉄と比べると悪いので、溶接構造のアルミ部品はあまり積極的に設計で使いませんねー

耐食性を求めるなら、A6061

もし耐食性を求めるのであれば、A6061を使うのが良いです。

A6061も産業機械ではよく使われる部品であり、A5052と比較をされることが多い材料なのですが、

A6061は「溶接性は低いが、耐食性が優れる」という違いがあります。

リヴィ

サッシとか外板とかで使われていたりしますねー

ちなみに、A5052よりも若干強度が高いというメリットもあるのですが、もし強度を優先するのであれば後述するジュラルミン系の方が優れています。

「強度もほしいが、耐食性の方がもっと重要」ということであれば、A6061が良いと思います。

強度を求めるならジュラルミン系

軽量化は基本必要なんだけれど強度も欲しいという場合には、ジュラルミン系を使用しましょう。

比重は他のアルミと同様で鉄の1/3程度にも関わらず、強度が比較的高いです。

具体的には、

  • A2017(ジュラルミン) 耐力:275 N/mm2
  • A2024(超ジュラルミン) 耐力:325 N/mm2
  • A7075(超々ジュラルミン) 耐力:505 N/mm2

などがあります(耐力データは、西村仁著、
加工材料の知識がやさしくわかる本
より引用)。

リヴィ

昔、アルミで定盤を作る際にジュラルミンを使った記憶があります。

ただし、ジュラルミン系は溶接・曲げが不可で、基本的に切削加工のみとなることに注意です。

架台を設計するなら・・・

鉄を使うなら、形鋼

もし「架台に強度がほしい」「鉄系を使いたい」のであれば、形鋼を使うのが良いです。

形鋼とは、よく鉄骨などで使われるH鋼とか、アングル材・Cチャンネル材などのことです。

材質はいろいろあるものの、基本となるのはSS400となります。

溶接する事もできますし、溶接をせずとも形鋼に穴を開けてボルト止めをするのも可能です。

リヴィ

形鋼は産業機械だけではなく、構造物などにも利用されています。

ただし、鉄は重たいので、移動・輸送をさせる場合にはリフターやクレーン(場合によっては吊りボルト・吊りピースなど)が必要となります。

また、溶接してしまうと個々の部品に分解できなくなるので

  • 出荷しようとしたら、シャッター通らなかった!
  • 輸送できる限界寸法を超えちゃってた!

なんていう事故が起こらぬよう、設計時に「どこで分割するか」の検討も忘れずに行う必要があります。

なお、形鋼のラインナップについては、以下のページをご参照ください。

アルミを使うなら、アルミフレーム

一方で「軽いやつがいい」「組立・分解の頻度が高い」のであればアルミフレームを使うのが良いです。

手軽に扱えますし、

リヴィ

研究開発の装置架台とか、ワーク用の治具のフレームとかに使ったりしますね。もちろん、アルミフレームを使った装置を設計し、それを納品することもあります。

またアルミフレームおよび専用のブラケットは、種類・サイズが豊富で設計自由度が高いです。

リヴィ

会社でアルミフレームを採用する際に、設計自由度が高すぎて担当者ごとの統一感がなかったりしたので、標準化したりもしてますねー

アルミフレームはアクセサリーも充実していており、

  • キャスターをつけられたり、アジャストパッドをつけられたり、
  • 取っ手をつけられたり、扉のパネルをつけられたり
  • ケーブルマウントやケーブルカバーをつけられたり

など、非常に便利です。

アルミのフレームだと、強度とか不安だな・・・

という人もいるかと思いますが、SUS(エスユーエス)というメーカーに問い合わせれば、設計した構造に基づいて強度解析してくれたりもします。

気になる方は、問い合わせをしてみてください。

ただし、アルミフレームのメーカーは複数社あるのですが、

各社形状がバラバラで基本的に互換性がないので、プロジェクト単位ではメーカを統一しておいたほうが良いです。

リヴィ

有名なのは「ミスミ」ですが、他にも「SUS」「ボッシュ」「イマオ」「NIC」などたくさんあります。

板金部品を設計するなら・・・

  • カバーや外装などを設計したい
  • 重量をあまり増やさずに体積を増やしたい
  • 1つの部品で、ある程度複雑な形状を作りたい

などといった場合には、板金で部品設計をするのが良いです。

板金部品はプレスで曲げて加工するのが基本ですので、比較的伸びやすい材料が好まれます。

私が設計する部品は板厚3mm以下のものが多いのですが、その中での材料の選定方針は、

  • 汎用なら、SPCC・SECC
  • 耐食性がほしいなら、SUS304
  • 軽さがほしいなら、A5052

といった感じです。

板金部品はある程度複雑な形状にすることが可能なので、強度については板厚や部品の曲げ方の工夫でカバーすることが多いです。

また価格については、SUS304は鉄の2〜3倍、A5052は鉄の5〜6倍ぐらいという感覚です。

リヴィ

基本的にはミスミのmeviyというサービスを使ってます。

より強度が欲しい場合には、SS400やSPHCなどを使いますが、ゴツい部品を使って板金加工するほど製作精度が悪くなる点に注意が必要です。

板金の加工限界については、以下の記事をご参照ください。

他の金属材料ってどういうときに使うの?

真鍮(黄銅)

真鍮(黄銅)は、入手性が高く、加工もしやすい材料の一つです。

ただし、個人的には使用頻度は高くないです。

なぜかというと、銅は重いからです。

材料の比重を比較してみると、

  • 鉄・ステンレス:約7.9
  • アルミ:約2.7
  • 黄銅:約8.5
リヴィ

鉄より重たいので、手に持ってみるとズッシリ来ます

銅は熱伝導率がよくヒートシンクの設計に使う、導電性がよく配線器具の設計に使うなどはありますが、それ以外の用途ではほとんど使わないです。

チタン

チタンは金属の中でも非常に耐食性が高いです。

ステンレスよりも耐食性が高いので、アクセサリーや医療機器なんかに使用されていたりします。

リヴィ

私は金属アレルギーがあるので、結婚指輪はチタン製のものにしています笑

さらに軽くて強度があるのも大きなメリットです。

軽くて強度が求められる業界といえば航空・宇宙産業で、これらにチタンがよく使われているとのことです。

ですが、一番の欠点は材料の値段が高いことです。

そのため、産業機械を設計する上ではほとんど使うことがありません。

まとめ

今回は、私の経験をもとにして、材料選定の基本方針について解説しました。

業界や企業によって方針が違うので基本は勤め先企業の社内基準を参考いただければと思いますが、

  • 社内基準ではカバーされていない部分について知りたい
  • 全くの設計初心者なので、ざっくり知りたい

という方は、この記事を参考にしていただければと思います。


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りびぃ

この記事を書いた人

機械設計エンジニア: りびぃ

設計者が身につけるべき材料のコスト感覚【安くものを作ろう】

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