- ねじを使う上で気をつけておくべきこととかを知っておきたいという人
- 現場経験が少ないため、ねじってどんなことでトラブるのかがわからないという人
- どんなトラブルが起こるかを知っておくことで、心の不安をなくしたいという人
こんにちは、リヴィです。
機械設計は、装置を作る前段階からパソコンの画面や図面とにらめっこをし、「計算結果に問題はないか」「寸法に問題はないか」「他に検討漏れはないか」と散々頭を悩ませます。
そうやってチェックをしていって、ようやく製造の部門や外注にバトンタッチをすることができるのですが、それだけでプロジェクトがうまくいくかというと、そんなに甘くはないです笑。
実際に製品が製作されていったり、組み立てられていく過程でも、様々な問題が起こります。
個人的な感覚ですが、特にねじに関するトラブルの頻度は、数あるトラブルの中でもそこそこ上位を占めます。

そもそもねじって、機械要素の中で最も多用する部品ですからね笑
私は受注生産の産業機械を中心に仕事をしてきたのですが、設計完了後は自ら現場に出向いて製造・組立現場を見に行っていました。
そのとき現場で起こる数々のトラブルについて、素早く原因究明し設計図書をひっくり返して確認することをしていました。
場合によっては、その場で設計変更したりすることもよくありました笑

設計では、トラブル対応のときが最も忙しく、最もみんなが嫌がる場面です。残業とか、休日出勤とか・・・
設計の人には「オレは普段頭を使って考えながら仕事しているんだぞ!」という人もチラホラいるのですが、
そんな人ほどトラブルが起こったときにでも、焦ったり、慌たり、思考停止したり、責任転嫁することなく、冷静に対応・指示ができる技術者がかっこいいですよね!
そこで今回は、ねじでよく起こるトラブル事例とその対策について解説をしていきます。
この記事を読むことで、「そもそもトラブらないためにどうしたらよいか」「仮にトラブっても、どうやって対処すればよいか」といったことに役立てていただければ幸いです。
ねじでよく起こるトラブル事例
まず最初に結論として、ねじでよく起こるトラブル事例のデータを示します。
國井良昌著,ねじとばねから学ぶ! 設計者のための機械要素によると、ねじのトラブルを多い順に並べると、以下の通りとなるとのことです(ただしデータは、著者が携わった国内の電子・電気機器の企業との業務経験に基づいて作成されたもの)。

ただ、全て解説をするととんでもない量になってしまいますので、私の経験と照らし合わせた上でいくつか厳選し、解説をしていきます。
ねじばか
ねじのトラブルについて最も多いのは「ねじばか」です。
「ねじがバカになる」というのは、「ねじ山が破断し、ねじとしての機能が失われる」という意味で、「ねじがなめる」という人も多いです。

「頭が悪い」という意味ではないですよ笑
ねじばかが発生しやすいのは、ねじを締めている最中です。
ねじを工具で締めていくと次第に軸力が発生してくるため、ねじ山のせん断方向に力が作用します。
その際、ねじ山がそのせん断力に耐えられなくなると、雄ねじまたは雌ねじのうち、強度が弱い方のねじ山が欠けてしまうのです。
これが「ねじばか」「ねじがなめる」が起こる原理となります。


めねじの強度の方が低いケースが多いため、大体はめねじ側がなめます。
私の経験上で言うと、特に以下の箇所でねじばかが発生することが多いです。
- アルミ・アルミフレーム・鋳物・樹脂などの母材に切られた雌ねじ部分
- 樹脂製オイルゲージの雄ねじ部分
- 樹脂製サイレンサーの雄ねじ部分

ねじを締めた時、最もナット(雌ねじ)に近い側のねじ山が一番せん断力を受けます。なので、ねじ山の破断はそこで起こることが多いです。
予防策
- ねじのはめあい長さを長くし、せん断力を分散させる(参考記事:ねじのはめあい長さについて【何山かかっていればよいか?】)
- そもそも強度の弱い材質の部品を使わない
- 適正な締付けトルクで締める。このとき参照する締付けトルクは「どんな状況下(材質・トルク係数)における締付けトルクか」を必ず確認する
- 電動工具、エアー工具は使わない
- なるべく慎重にねじを締める
- ねじを締める時、工具の柄を延長しない
- ねじの強度区分を見直す
- 中古のねじは使用しない
- ねじは必ず着座するように締め込む
- ねじに潤滑剤を塗布し、軸力のばらつきを抑える(ただし、潤滑剤なしのときとは締付けトルクが異なるので注意)
トラブル後の対策
- 部品交換をする
- タップで雌ねじを切り直す
- 母材に立てたタップでねじ止めするのを諦めて、ナットでねじ止めする
- ナットを溶接し、それを雌ねじとして利用する
- 一回り大きいサイズのねじを切り直す
- 別の場所にタップ・バカ穴を切り直す
破断
続いて多いトラブルは、「破断」です。
ねじは、小さなねじでも大きな軸力を発揮できることから、部品を固定するのにめちゃくちゃ多用されている機械要素ではあるのですが、
場合によっては外力に弱く、あっけなくトラブルが起こることがよくあります。

ねじ山の形は、言ってみれば「応力集中の塊」です。特に「せん断力」に対しては弱い傾向にあります。
過去には、三菱自動車製の大型車のタイヤが走行中に脱輪し、死亡事故にまで至ったという大きな事故も発生します。
破断が起こる状況は大きく分けて2つあり
- ボルトを締めている時にねじ切れる
- ボルトを締めた箇所に振動や衝撃が加わることで、ボルトの首が飛ぶ
が挙げられます。

特にエアー機器の管用継ぎ手として使われるM3、M5のねじは破断しやすいです。つい先日、シリンダ本体に継ぎ手を取り付けている最中にねじが破断し、破断した片がシリンダ本体内に入りそうになりました・・・
ボルトの破断には至らなくとも、ねじが塑性変形で伸びたり、くびれを起こすこともあります。
元々塑性域まで締込むと決めていてボルトを塑性変形させるのは問題ありませんが、弾性域までしか締付けていないのに結果的にボルトが塑性変形している場合はアウトです。
外力などの影響で弾性変形から塑性変形をした際に、ボルトが降伏により一気に伸びるため、ボルトと母材との間に隙間ができている可能性が高いです。
- ボルトの軸力が失われている可能性が高い
- 振動・衝撃が発生しやすい状況になっている
といったことから、いつボルトが破断してもおかしくない状況だと言えます
予防策
- ねじの材質は、強度の高いものにする
- ねじの強度区分を高くする(ただし、強度区分12.9以上は、遅れ破壊を招くのでなるべく使用しない。参考記事:高強度ボルト使用における注意点【遅れ破壊に気をつけよう】
- 適正な締付けトルクで締める。このとき参照する締付けトルクは「どんな状況下(材質・トルク係数)における締付けトルクか」を必ず確認する
- 中古のねじは使用しない
- ねじは必ず着座するように締め込む
- ねじは慎重に締める
- ねじに衝撃力がかからないようにする。
- 防振対策を十分に行い、可能であれば試験もする
トラブル後の対策
破断した片を取り除く方法
- ボルトの頭に左ねじのタップを加工し、左ねじを挿入することで外す。
- 先端が鋭利になっている工具や、ポンチなどを使って慎重に外す
- なめたネジはずしビットを使って外す。
破断した辺を取り除いたあと
- ねじの本数を増やす
- ねじの径を太くする
- 強度・強度区分の高いねじに交換する
- 防振材・緩衝材を入れる。
- 管用ねじが破断した時は、破断した片が配管内に混入した可能性があれば、十分にフラッシングを行う
さび
続いてのトラブルはさびです。
この記事では、電食も同じくくりとして解説いたします。
硬くて強いというイメージがある金属でさえ、さびが進行していると「えっ!?」と思えるほどボロボロになってしまいます。
材料は錆びると、脆くなって強度が下がり、その結果、二次的なトラブルとして「ねじばか」「破断」「頭部溝の潰れ」といったトラブルを引き起こしてしまうことになります。

錆びや腐食は発生するのにそこそこの時間がかかります。そのため、トラブル発生時は製品が出荷されたあとだったり、お客さんのところに行き渡ってしまっていることが多いです。
さびや電食の共通の要因は「水」です。
海の近く・屋外・水をよく使う場所などにおいては、しっかりとした腐食対策が必要となります。
また、意外と見落としがちになのはエアー機器です。
コンプレッサーによって生成された圧縮空気が、配管内を流れる際に冷やされますが、
その際に、圧縮空気中に含まれていた水蒸気が結露を起こすことで、配管内に水がたまります。
最終的にはエアータンクの底や、エアフィルタ・エアドライヤのドレンタンクなどに溜まっていくのですが、ドレンが溜まったまま放置をしていると次第に継ぎ手などがさびていきます。


エアコンの室外機も立派なエアー機器ですが、室外機の場合はドレンを外へ垂れ流していますよね!
ちなみに電食は、金属の組み合わせによって発生しやすい・発生しにくいがあるものなので、表面処理での対応が難しければ材質を見直してみるのも有効です。

注意してほしいのは、「ステンレス=錆びない」は誤りですからね!あくまで「鉄よりは錆びにくい」というだけです。またステンレスの中にもいくつか種類があり、SUS304やSUS316は錆びにくいですが、SUS430・SUS403などは錆びやすいです。
予防策
- 防錆処理(塗装・メッキ)をしっかり行う
- ステンレスなどの材質に変更する(ただし、電食によりステンレスと接している相手材料の腐食が進行することがあるので注意)
- ドレンは定期的に排出し、ドレン周りの定期点検も行う
- ドレンを自動排出できるようにしておく
トラブル後の対策
さびたねじを外す方法
- 六角ボルトの場合は、めがねレンチを使う
- ナットブレーカーを使う
- 摩耗した工具を使用せず、慎重に外す
- エアー工具・電動工具は使わない
- 横方向にねじが止まっている場合は、母材をジグなどで受けておく
- 潤滑剤を駆使しながら外す
- ボルトの頭に左ねじのタップを加工し、左ねじを挿入することで外す。
ねじが外れたあとについて
- 新しいねじを使う
- 電食が原因であれば、ねじや母材の材質・表面処理を見直す。
- 錆びたねじ穴は再利用しない
- 管用ねじの場合は、配管内を十分にフラッシングする
着座不良・緩み
つづいてのトラブルは、「着座不良・緩み」です。
ねじを締めるのは、機械設計をやったことがない主婦などでも、今までに一度はやったことがあると思うのですが、
ちゃんと締めたつもりでも、何日か経つとなぜか緩んでいることってありますよね?

ある日突然、家具の隙間などにねじが落ちていたりして「あれ、これなんのねじ?」ってなりますよね笑
しかし、大型の産業機械や自動車等においては、「ねじが緩んでも、まぁいっか!」では済まなくなります。
ボルトが緩むと、ボルトにかかる負荷荷重が一気に増大するため、ボルトが塑性変形したり、破断するリスクが急激に高まります。
また他にも、カバーなどに使われているボルトが緩むと、振動できしみ音がする原因になったりしますし、
管用ねじであれば、内部の流体が漏れる原因にもなったりします。
ねじの着座不良・緩みの原因については、実は意外と奥が深く、解説するだけで1記事分ぐらいになってしまいます。
以下の記事で詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
予防策
- 合いマークを使い、緩んだときに発見しやすくする。装置稼働後も、定期的に合いマークをチェックする(参考記事:ボルト・ナットに対する合いマークの使い方)
- 面圧を下げるために、広めの平座金を使う
- 面圧を下げるために、バカ穴は小さめにしておく
- ネジロックを使う(ただし、ねじ径の小さいところに使うと、取外し時にねじ頭がなめるので注意)
- 緩止めナットを使う(ナイロンナット、Uナット、ハードロックナットなど)
- ノルトロックワッシャを使う(ただし、母材に食い込む際に傷がつくので、柔らかい材料には向かない)
- 硬い母材に変更する
- 弾性域での締付けではなく、塑性域での締付けを行い、軸力のばらつきをおさえる(ただし、メンテナンスが必要な箇所など、取付け取外しの頻度が多いところには向かない。参考記事:ねじの締付け管理方法【5選】)
トラブル後の対策
予防策の方法と、ほぼ同じ
頭部溝の潰れ
最後に解説するのは、ねじの頭の潰れです。
特に小さいねじを使うときに起こります。

個人的には、家庭で起こるねじのトラブルとしては第一位だと思います笑
ねじの頭が潰れてしまうと、ねじに工具を引っ掛けることができなくなるので、どうしようもできなくなってしまいます。
家庭においては、ねじの頭が潰れてしまう原因は、
- ねじの溝のサイズに対して、工具のサイズが小さすぎる
- ねじの溝に工具をしっかり押し付けていない状態で、ねじを回そうとしてしまう。
の2つです。
特に家庭でドライバーを持っている人でも1本ぐらいしか常備していない人が多く、各サイズのドライバーをキッチリ揃えている人はめったにいません。

メカ屋さんや電気屋さんは、ドライバーセットを持っていることが多いですけどね笑
製造現場でも上記が原因で起こることも多いですが、それに加えて
- 工具の先端が摩耗している
- 横着して、ボールポイント側で大きなトルクをかけようとする
- 小さなねじにネジロックを塗ったせいで、ねじが外しにくくなる
などが挙げられます。
予防策
- 十字穴のねじの場合、ドライバーは大きいものからはめるようにする(参考記事: もうネジを潰さない!ドライバーの使い方
- 呼び径の小さいねじを使用する際は、トルクスねじ(ヘクサロビュラ穴ねじ)を使う。
- 工具は、溝の奥までしっかりと差し込んでから回す
- ボールポイントを使ってトルク締めをしない
- 適切なサイズの工具を使用する
- 呼び径の小さいねじに対しては、ネジロックを使わない
トラブル後の対策
- 呼び径の小さいねじに対しては、ネジロックを使わない
- 頭部の溝に滑り止め剤を充填し、工具を使って外す。
- ネジザウルスを使って外す。
- なめたネジはずしビットを使って外す。