【解説】工場で働いている人の人生は詰みなのか?

キャリア

「工場で働いている人の人生は詰みます」という動画を見たんですが、今の時代、工場勤務の人達は詰んでいて、人生の敗北者なんですか?

このような疑問を持った人へ、お答えしていきます。

私は慶應義塾大学 理工学部 機械工学科出身で、普段は工場で機械設計の仕事をしています。

機械設計の中でも特に産業機械をメインにやっており、「人間の作業を機械で自動化すること」が仕事です。

先日私がツイッターを見ていたところ、Tiktokで「かずくん」という方が激しい発言をした、というリツイートが多くの方から回ってきました。

その動画の内容は以下のとおりです。

工場で働いている人の人生は詰みます。勘付いている人お多いかもしれないけど、工場で働いている人っていうのはもはやコンピュータと同じ というよりコンピューターの方が精度が高いので もはや工場員は不要です。大体、工場の作業員でしか働くことのできない人っていうのは、代替可能性といって誰にでもできる要素が多いんですよね そりゃあ、ネジをクルクル回すだけの作業になんの価値があるのか正直不明です。そしてそうなった場合その工場の経営者はどうするか?僕も起業していますが その場合はバッサリとその人をリストラしていきます。残酷ですがしょうがないです。会社としてもコストを減らし売上を伸ばして利益を出していきたいのでね。なのでこれからの時代 工場で単純作業をしている人の人生は詰みます。(@kazu_business Tiktokより

彼はプロフィールを見る限り、慶應義塾大学理工学部の学生で、会社の経営者でもあり、月収は最大700万円とのことです(どのような会社を経営しているかまでは調べていません)。Tiktokでは「お金」をキーワードとして情報・意見を発信しているようで、おそらく将来どのようなキャリアを歩んでいこうかと悩んでいる学生をメインターゲットとしているように思えます。

リヴィ

私が卒業した大学・学部の後輩ということが判明したときには、しっかりお金を稼いでいるところは立派だと思いつつも、複雑な気持ちになりました。笑

このようなプロフィールを公開していることと、先程のような主張をしていることから、明らかなポジショントークではあったのですが、動画が投稿された結果は予想通りの大炎上。

Tiktokはもちろん、ツイッターでもほぼ全てが批判コメントとかなりの大荒れで、コメントの内容は「君が今来ている服や電子機器、座っている椅子は誰が作ったと思っているんだ!」「工場で働いてもいないのに、よくそんなことが言えるな!」というものがほとんどでした。

リヴィ

中でも「ものづくり大国日本」「高品質のメイドインジャパン」という主義が強い人にとっては、とんでもない発言だったようです。「屋上へ行こうぜ・・・・・ひさしぶりに・・・・・きれちまったよ・・・・・」というサラリーマン金太郎バリのコメントをしていましたね。笑

冷静に見れば、彼の発言にはかなり不正確な内容もありますし、そもそも彼の使っている言葉もなんだかおかしい点がいくつかあります。

ただ、たとえ不正確な情報だとしても、それが精査されずに暴走してしまい、その結果デマがことも多いです。

大量に情報が飛び交うSNSの投稿を一つ一つ吟味している人は少ないので、業界の実態についてよく知らない人が「へぇ、そうなんだぁ」と鵜呑みにしてしまわないかが不安で、この記事を書きました。

そこで今回は、5年以上実際に工場勤務をしていて、機械導入による作業自動化を仕事としている私が、感情論を抜きにして、彼の主張に対してコメントをしてます。

この記事を読んで、将来に悩む日本の学生が、工場での仕事に対する誤解をなくし、正確な情報を整理した上で将来の進路やキャリアについて考えていただければ幸いです。

ついカッとなってしまう方もいるかも知れませんが、一旦冷静になって、ご一読ください。

※文脈から判断し、私の方で一部言葉を変えて解説している部分があります。誤りがある場合はご指摘いただければ幸いです。

※この記事は、彼の動画へのアクセスや、彼の誹謗中傷を誘導するものではありません。誹謗中傷はお控え願います。

誤解をしないでほしいこと

ここでは、彼の主張で不正確な部分や、誤解を招きやすい表現について、解説していきます。

誤解その1:「工場で働いている人」=「ネジをクルクル回すだけの人」

「工場で働いている人(文脈から、この記事では「製造」や「保全」に関わる人達と解釈します)」というのは、「ネジをクルクル回すだけの人」というのは誤解です。

確かに機械の部品で最も多く使われているのはネジですし、一般人にもイメージされやすいと思いますが、それ以外にもたくさんの仕事があります。

ほんの一部ですが、作業員の業務は以下のものがあります。

  • 部品を作ったり、手直しをしたりする
  • 溶接・接着等を行い、部品を組み立てる
  • クレーンやフォークリフトを活用し、ものを搬送する
  • 測定や動作確認をして、異常がないかをチェックする
  • 消耗品を交換する
  • 5S活動(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)をすることで、QCD(Quarity:品質、Cost:費用、Delivery:納期)の向上をする
  • 作業効率を挙げるために何をするべきかを考え、チームで議論する

他の職種に比べて力仕事の割合は多いですが、しっかり頭を働かせなければならない業務も多々あります。

また、チームで仕事をすることも多いので、他の作業員とのコミュニケーションも非常に重要です。

「ものづくり大国日本」と呼ばれるようになったのは、工場で働いている人達のおかげ

ここで、「ものづくり大国日本」を代表する企業であるトヨタ自動車を例に挙げましょう。

トヨタ自動車は今では世界トップクラスの販売台数を誇っていますが、実はトヨタは自動車メーカとしては後発です。

大衆車向けの自動車が普及した20世紀初頭はまだトヨタの会社自体がなく、当時最強だった自動車メーカはフォードやGM(ゼネラルモーターズ)、クライスラーというアメリカメーカでした(この3社を「ビッグ3」と呼びます)「gazoo 50年代アメリカ車黄金期(1959年)より」。

では、そんなトヨタがなぜ世界トップレベルにまで成長できたのか?

これには様々な議論がありますが、その中でも大きな要素の一つが「生産技術」という物の作り方の工夫と、その徹底です。

有名なのが「トヨタ生産方式」と呼ばれるもので、「自働化」と「ジャスト・イン・タイム」の2本柱からなります。

詳しい解説は省略しますが、間接的にしろ、直接的にしろ、この2本柱を成立させるためには、工場作業員の力がないと不可欠なことは間違いありません。

誤解その2:「ネジをクルクル回す」=「単純作業」

彼の主張では、「ネジを回す」=「刺身の上にたんぽぽを乗せる仕事のような単純作業」というニュアンスが聞いて取れますが、これは間違いです。

確かに、一部のパーツに使われているネジは、思考停止にクルクル回すだけというものもありますが、それだけではありません。

ネジを締める作業の中には「部品同士の位置を正確に合わせながら締めていかなければならないもの」「機械じゃできないほどの微妙な力加減が求められるもの」「0.01mm単位で締め込みの微調整が必要なもの」など様々です。

工具を使ってクルクル回して締める」という点は共通しているものの、ネジの締め方はケースバイケースで違ってくるのです。

リヴィ

ニトリの家具を自宅でちょちょいと組み立てるような要領で締められるネジは、ネジ全体のほんの一部です。ただ、実際に現場で働いた人じゃないと、なかなか理解できないかもしれませんね。

誤解その3:「コンピュータの方が精度が高い」

コンピュータは精度が高いというのは、必ずしもそうは言えません。

コンピュータでの判定が難しい要素の一つが、表面の粗さの検査です。

機械に使われる部品によっては「ここの表面はこれぐらいツルツルじゃないといけない」というものがあるのですが、これはかなりアナログ寄りの世界です。

熟練の工場作業員であれば、指先や爪でなぞったり、光の反射具合によって判定をしていくのですが、これをコンピュータで判定するのはかなり難しいのです。

最近自動化で人気のある画像センサも、部品の特性(透明体かどうか、表面が鏡面かどうか、曲面か平面かなど)によって、難易度は大きく変わります。

にもかかわらず、画像センサは、わずか「数十センチ✕数十センチ」範囲を判別するだけでも1台数百万円することがザラです。

リヴィ

触覚や視覚など、人間の五感という名のセンサーには、まだまだ敵わない分野もあるんですよね。

誤解その4:工場の作業は全て、コンピュータやロボットへ代替可能

彼は「工場員は不要」と述べた上で、「誰にでもできる要素(文脈から、この記事では「コンピュータや機械にもできる要素」と解釈します)」と述べておりますがこれは間違いです。

私の経験上、このような発言をする人は、現場を知らない人によくあります。

確かに機械は人間と比較すると、重量物を扱える、体調不良やサボりがない、繰り返しの作業が得意などのメリットがありますが、デメリットも見落としてはいけません。

工場員の作業が全て、コンピュータや機械にできない理由はたくさんあるのですが、その中から2つをご紹介します。

スペースの問題

多くの場合、人間の作業を機械に置き換えようとすると、設置のためにスペースが必要です。

予め機械を導入することを前提として工場が建てられているのであれば良いですが、そのような工場ばかりではなく、むしろそうでない場合の方が多いです。

特に日本は土地が狭いので、人間の作業を機械に置き換えようとしても、単純に機械が入りません。

また、ギリギリ機械がおけたとしても、機械の寿命が来た時にどうやってメンテンスをするのかを考えると、なかなか厳しい場合もあります。

リヴィ

機械のメンテナンスについて考えることは重要です。メンテナンスの際は機械を止める必要がありますが、それによって物の製造そのものを止める訳にはいきません。ある機械をメンテナンスしている最中でも、物の製造自体は止めてはならないというケースの方が多いです。そうなると、製造ラインが2つ必要といったように、更なるスペースが必要になってきますね・・・

費用対効果

私がざっと調べたたところ、世の中にはネジを全自動で締めるロボットというものが存在しますが、その機械を導入したことによる費用対効果が低い場合には、機械への代替が進みません。

1種類のネジをピンポイントで締めるこの機械、お値段はなんと「1台で100〜500万円」ほど。

さらに、機械に使われるネジは、1箇所1種類だけではないので、「複数台のロボット」または「部品のポジションチェンジャー」などが必要となり、コストは増えます。

さらにさらに、数年経てば組み立てる部品そのものが変わることもザラにあるので、そのたびに機械のレイアウトやプログラムを変える必要があり、コストは増えます。

こういった費用と人件費とを比較したとき、機械の方に優位性がある場合に、機械導入へ一歩前進できるのです。

リヴィ

自動車に使われているネジの本数は、小型自動車で約3000点あります(ニュースイッチより)。また、自動車のフルモデルチェンジは、軽自動車で5〜6年程度の周期だそうです(ベストカーWebより)。機械の導入は、簡単な話にはならないんですよね。

なんとなくだが、彼の言いたいことはわかる部分もある

ここまでの話を聞いて「なぁんだ。じゃあ、工場作業員は人生に詰まなくて済むのか。」・・・としたいところですが、そういう話になるわけでもありません。笑

彼の主張で挙げられた具体例は不正確な点から良くなかったです、彼の言いたそうなことについてよーく噛み砕いてみると、なんとなく言いたいことが分かる部分もあります。

わかる点その1:これからの時代の職業選択において、代替可能性の高い仕事の選択はナンセンス

主張の本質はおそらく「これからの時代の職業選択において、代替可能性の高い仕事の選択はナンセンス」ということだと思いますが、これについては「確かにそうだよね」と私は思います。

コンピュータや機械が得意なのは、「予めプログラムされた作業を何度も高速・高精度で行う」ことです。

ここでいう「同じ」について、「どこからどこまでが同じか」はその機械の仕様にもよりますが、一般的にはタイミングや一つ一つの動作など、具体的な部分にまで入り込むほど代替可能性が高くなる傾向にあります。

リヴィ

例えば「Aという部品を、B地点からC地点へ、10秒に1回、誤差1cm以内で、運搬する作業を、一日8時間やる」という作業は、機械に代替される可能性は高いかもしれませんね。

さらに工場の仕事内容や難易度がこれからも同じであることは考えにくく、「そもそもネジを使わなくても済むような構造にする」といったようなムーンショットが放たれれば、とつぜん代替可能性が高くなるというケースもあります。

例えば、ニトリの「Nクリック」という機構を採用した家具では、組み立てにネジや工具が不要です。

リヴィ

誰でもあっという間に組み立てができるので、私は結構な衝撃を受けました。

また、ここまでは対コンピュータ(機械)という競合相手がメインでしたが、もう一つ競合相手がいます。

それは「外国人労働者」です。

日本はアジア諸国と比較するとまだまだ物価が高いので(エイビーロードより)、人件費もアジア諸国と比較すると高いです。

そのため、難易度が低い仕事であれば、外国人を雇用する方が人件費は安くなるケースが多いです。

さらに日本よりも海外の方が資源が豊富にあり、材料も安価で手に入ります。

こういったことから、1990年代ぐらいから、実際に多くの日本メーカが、工場を海外に建ててそこで現地従業員を雇うということを進めていっているのです。

リヴィ

一応2020年4月から日本では「同一賃金、同一労働」が始まり、日本国内では日本人と外国人とで収入の差が付きにくくなりましたが、勤務地が海外であれば関係ありませんからね。

わかる点その2:お金稼ぎを特化させるには、工場の従業員になるべきではない

彼がお金に関する情報を発信していることから、おそらく彼の動画の視聴者の中には「月収で数百万円ぐらいの大金を稼げるようになりたい」という人が多いと思います。

この前提で話をするのであれば、「お金を稼ぎまくるのに特化するためには、工場の従業員として働くべきではない」というのは賛同できます。

マイナビ転職に掲載されている「2020年版の全312職種の職種別 モデル年収平均ランキング」を見ると

例えば、1位はシステムアナリシストの1,609万円などが並ぶ中、「整備・メカニック(自動車・二輪車)」は199位で490万円、「工場生産・製造(輸送用機器・家電・電子機器系)」は225位で469万円と、1位の職種の1/3以下しかもらえません。

あくまで「平均」なので、どの企業に就職するかによってもピンキリですが、私が大手機械メーカの正社員として働いていた企業でも「月収で数百万円」稼いでいるという従業員は見たことがありません。

これを達成するためには、少なくとも役員や経営者にまで上り詰めないと不可能でしょう(その頃にはいい歳になっている場合が多いですが)。

リヴィ

ちなみに、私の職業でもある「機械・機構設計(工作機械・ロボット・機械系)」は、104位の546万円です。「仕事選びは年収じゃない!やりがいだ!」と言えたらかっこいいのですが、将来のお金に関する不安が強くなってきているので、度外視するわけにもいきませんよね。個人の価値観にあった、両者のバランスが大切ですね。

これからの工場作業員は、withコンピュータ・with機械

これからの工場作業員に求められるのは、withコンピュータ・with機械であると私は思います。

代替可能性の話をするとよく「AIに奪われるかどうか」のような「vsコンピュータ・vs機械」の構図の議論を見かけますが、それはちょっとナンセンスな議論です。

製造業における目的はあくまで「良いものを、安く、早く」作ることですので、そのためには「手段の選定を上手にできること、その手段を上手に使いこなせることが、その時代に合わせてできること」が大切です。

コンピュータが得意なところはコンピュータという手段で、ロボットが得意なところはロボットという手段で、人間が得意なところは人間がやるという手段の判別ができることが大切ですが、時代が進んでテクノロジーが進化していけば、各手段が得意とする領域は平気で変わります

工場の作業に着目すれば、近年ではIoTやスマートファクトリーが注目を浴びており、センサーやネットワークを上手く活用しながら効率よくものづくりをする事例も増えてきています。(経済産業省 スマートファクトリーロードマップより

また、仕事のやり方そのものが変わるケースも出現してきております。

コロナ禍をきっかけにARやVRなどの技術が製造業にも導入されつつあり、人間とコンピュータとのコミュニケーションを活用しながらものづくりをしていくという技術も出現してきていますBIZ-ARより

この技術は、これまでのような人間が主となってコンピュータを活用するといった業務の仕方をするだけのものではありません。

例えばビッグデータを基にコンピュータが人間へ指示を出すといったように、コンピュータが主で人間が作業をするという業務の仕方もこれから普及していくことが見込まれます。

リヴィ

一般的には、コンピュータやロボットが得意な分野が拡大してくことが多いです。ただし、サピエンス全史の最後の方でも述べられているように、「生体工学」のテクノロジーの進化が注目されていることも見逃せない点です。

また、筑波大教授でかつ、サイバーダインCEOの山海教授の講演も、長いですが大変興味深い内容です。

そのため、ニュースや本を見ながら、世の中の動向やテクノロジーの進化を常に追いかけ、それを自分が身につけるべきスキルの選定・進むべきキャリアの選択の判断材料にしていくことが大切です。

まとめ

今回のポイントについてまとめると、以下の通りとなります。

  • Tiktokerのかずくんの主張には、不正確で誤解を招きやすい部分がいくつかある
  • 話の本質を見ると、理解できる部分もある
  • 工場作業員に限らず、代替可能性がある仕事は将来厳しい
  • お金稼ぎに特化したい人にとっては、工場作業員の仕事は不向き
  • 世の中の動向やテクノロジーに着目して、変化に適応できることが大切

今回は以上となります。ご一読ありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました