ものづくりにおいて、最も多く使用される部品は、群を抜いて「ネジ」です。その用途はいくつかありますが、最も多いのは「部品の固定」です。
部品にネジをつけるとなんとなく「固定されるもの」という印象がありますが、
そもそも、なぜボルトを締めると部品が固定されるのか?
その理由を理解して、ボルトを適切に使用できるようにしましょう。
部品が固定されるのは、母材同士の摩擦力のおかげ
部品同士が固定される直接的な原理は「母材同士に発生する摩擦力」のおかげです。
部品の固定の直接的な原理は、実は、ボルトそのものではないのです。
たまに「母材にあいた穴に、ボルトが引っかかっているから」という人がいますが、これは間違いです。

高校の物理で習うとおり、摩擦力(滑り静止摩擦力)は以下の式で表されます。
$$F=\mu N$$
F:摩擦力
μ:静止摩擦係数
N:垂直抗力
つまり、部品同士を適切に固定するためには、
- 静止摩擦係数を大きくする(小さくならないようにする)
- 垂直抗力を大きくする
の2つを対策することが重要となるのです。
静止摩擦係数を対策するには、母材の表面が大事
静止摩擦係数を大きくするためのアプローチとして、接触面を粗くするという方法があります。たとえば、
- 粗いヤスリで擦る
- 面粗し処理(ブラスト)をする
- 少し錆びさせる
などのによって、接触面を粗すことができます。
もう一つの摩擦係数が小さくならないようにするためのアプローチとしては、
- 接触面には塗装を塗らないようにする
- 塗装は、部品の組み立て後に行う
- 接触面にゴミや切り屑などの異物がないように清掃する
などです。
ほとんど荷重がかからないような部品に対しては、あまり気遣う必要がないですが、特に大きな荷重がかかる部分では、このような気遣いが必要です。
母材接触面の垂直抗力を生み出すのが「ボルト」の役割
ボルトの役割を厳密に言うと、母材接触面の垂直抗力を生み出すことになります。
ボルトを締め付けていってから、母材接触面の垂直抗力が発生するまでの原理は以下のようになります。

- ボルトの頭が母材に接触した状態でさらにねじ込もうとすると、ボルトのネジ部が引っ張られるように弾性変形する。(赤矢印)
- 弾性変形をしたボルトは、元の形状に戻ろうとするため、反発力が発生する(青矢印)。
- ボルトの頭とネジ部とに挟まれた母材が、2の反発力を受け、垂直抗力を発生させる
ボルトの頭と母材とが接していないのはNG
この原理は、ボルトの頭が材料に接していることが前提の話です。
この前提が崩れるとどのようになるかというと、
- ボルトが引っ張られないので、反発力が発生しない
- 反発力が発生しないから、材料同士が接触しない
- 接触しないから、母材同士に生じる垂直抗力は0
摩擦力は、静止摩擦係数と垂直抗力との掛け算なので、どんなに静止摩擦係数が高くとも、垂直抗力が0であれば、摩擦力も0となります。
そうなると、母材はボルトにただ引っかかっているだけの状態となります。
基本的にボルトは、軸に対して垂直な方向に対する力には弱いので、
ボルトに部品を引っ掛けるような使い方をすると、ボルトが曲がったり、ちょん切れたりします。
また、ボルトやナットは回転し放題であるため、簡単に緩みます。
ボルトを締める時には、必ずボルトの頭が接するように締め付けましょう。
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